「会社はノリと勢いで立ち上げた」。爽やかに笑いながら話すのは、「折り工学」を活用した月面住居の建設を目指すベンチャーOUTSENSE(東京都大田区)の代表取締役CEO(最高経営責任者)である高橋鷹山氏(28歳)だ。同氏が立ち上げた宇宙建築学サークルの仲間と共に、2018年8月にOUTSENSEを設立した。
同社は主に物体を折る技術を売りにしている。プラスチックや金属など様々な材料を折ることで、音の指向性制御や強度の向上といった機能を付加する。収納性や運搬性の向上も期待できる。今は折り技術を活用した地上での課題解決を目指している。
高橋氏が月面での建築を目指したきっかけは、浪人中に出会った1冊の本だ。月面基地をつくるアイデアが書かれていた。本を読んだ高橋氏は「宇宙に建物を建てた人はまだいない。俺がやりたい」と思い始める。そして建築を学ぶため、名城大学理工学部建築学科に入学。その後、宇宙建築を学べる東海大学工学部建築学科へ編入し、同年に宇宙建築学サークルTNLを立ち上げた。
大学院に進学したものの、高橋氏は研究者としての宇宙建築の実現に限界を感じた。自らの目標に近づくには起業すべきだと考えて大学院を中退。まずは人を集める必要があると考え、18年5月ごろにフェイスブックでボランティアを募集した。すると、ライターや広告代理店に勤める人、学生など、約30人のボランティアがすぐに集まった。月面住居を建設する夢を、学会やイベントでアピールし続けてきた取り組みが奏功した。
会社を立ち上げるまでは多数のボランティアと事業を進めたが、うまく回らなかった。人数が多く、役割を適切に割り付けられなかったことが一因だ。上下関係の無いコミュニティーとしての色合いが強く、込み入った業務を任せられない雰囲気も手伝った。スリム化を図り、OUTSENSEを設立時はボランティアを約8人に絞った。「せっかく集まってくれたのにうまくいかず、申し訳ないことをした」と高橋氏は振り返る。