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 病気の進行状況だけでなく、患者の悩みや社会との関わりまでを包括した概念である「ペイシェントジャーニー(Patient Journey)」。患者にとっての最良の体験と結果を提供すべきであるという「患者中心」の医療を実現する上で必須の考え方とされるが、医療業界のスタートアップはペイシェントジャーニーをどのように意識しているのだろうか。

 AI(人工知能)による症状検索や問診を手掛けるUbie(東京・中央、ユビー)、AI画像診断支援システムのLPIXEL(東京・千代田、エルピクセル)、治療用アプリの先駆者CureApp(東京・中央、キュア・アップ)は、ペイシェントジャーニーの各フェーズで特徴的な事業を展開している。3社に、患者中心の実現に向けた課題やビジョンを語り合ってもらった。(聞き手は大崩 貴之=日経クロステック)

左からUbieの阿部吉倫氏、LPIXELの袴田和巳氏、CureAppの鈴木晋氏
左からUbieの阿部吉倫氏、LPIXELの袴田和巳氏、CureAppの鈴木晋氏
(写真:加藤 康)
出席者
Ubie共同代表取締役医師 阿部吉倫 氏
LPIXEL最高技術責任者(CTO) 袴田和巳 氏
CureApp取締役最高開発責任者(CDO)兼医師 鈴木晋 氏

まずは自社の取り組みがペイシェントジャーニーの観点からどのような意義があるか教えてください。

Ubie阿部氏:病院で働いていると、患者さんが治療機会を逃しているなと感じる場面に出合います。受診の手遅れであったり受診先がベストではなかったりして、正しい医療に行き着くまでにとても時間がかかってしまっている。Ubieは疾患検索や問診というサービスを医療の入り口のところで提供し、患者さんを適切なタイミングで適切な医療に案内できるようにしたいと考えています。

Ubie共同代表取締役医師 阿部吉倫氏
Ubie共同代表取締役医師 阿部吉倫氏
東京大学医学部医学科卒。東京大学医学部付属病院、東京都健康長寿医療センターで初期研修を修了。2017年にUbieを共同創業。(写真:加藤 康)

LPIXEL袴田氏:画像診断支援という手段で、実際に治療が始まっていくためのトリガーを引いている、というのがLPIXELの立ち位置だと捉えています。医師も人である以上、どうしても見逃しが発生してしまうのですが、患者さんの立場からは、それはやはり許容できないと思います。診断後に最適な治療に入っていくために、いかに見逃しを減らせるかというのは、ペイシェントジャーニーの観点からしても大事なポイントです。

LPIXEL最高技術責任者(CTO) 袴田和巳氏
LPIXEL最高技術責任者(CTO) 袴田和巳氏
九州大学大学院システム生命科学府博士課程修了、博士(システム生命)。東京大学大学院特任助教、大阪大学大学院助教、医療機器大手のシスメックスを経て、2018年にLPIXEL入社。(写真:加藤 康)

CureApp鈴木氏:患者に合った、バラエティーに富んだ治療を提供できるというのがCureAppのポジションになります。治療とは患者さんに合わせて最適化していくもので、平均化した治療を画一的に与えればよいというものではありません。患者さんには色々な人がいるので、集団のエビデンスだけを見ていても適切な貢献はできません。患者さんにとって最適な治療とは何かを模索する中で、治療用アプリで効果を示すことができました。

CureApp取締役最高開発責任者(CDO)兼医師 鈴木晋氏
CureApp取締役最高開発責任者(CDO)兼医師 鈴木晋氏
慶応義塾大学医学部卒。東京大学医科学研究所を経て、がん研有明病院で初期研修を修了。2014年にCureAppを共同創業。(写真:加藤 康)

ペイシェントジャーニーの連続性をどう意識していますか。テキストと画像といった異なる形式のデータを一緒に学習できるマルチモーダルAI技術なども出てきましたが、例えば問診と画像診断の組み合わせについてはいかがでしょうか。

Ubie阿部氏:まさにそういうエコシステムを一緒につくっていきたいですよね。まず医師は画像を撮影するかどうか、という意思決定をしなければなりません。検査の前段階として問診でできるだけ患者さんの情報を集めて医師が共有することで、適切な検査が行われ、見逃しのない診断がつき、治療が進むというフローが実現すると思います。

LPIXEL袴田氏:診断する際には、ただ画像を見るだけではありませんし、文字を読むだけでもありません。言語化できない患者さんの状態も含めて、医師は総合的に判断しています。そうなってくるとマルチモーダルAIの開発というのは必然的な方向だと思います。

CureApp鈴木氏:機械学習では曖昧な状態を曖昧なままインプットして次につなげられるので、マルチモーダルなインプットをそのまま治療につなげられます。「診断できました、では切り替えて一から治療を始めましょう」というのではなく、「この患者さんはこんな特徴がある人でした」という問診や画像によるインプットを治療につなげられると、治療の質が最初から高くなるのではないでしょうか。