全6138文字
PR

 2019年末に中国を起点に始まった新型コロナウイルス感染症の度重なる世界的流行により、この2年半ほど、多くの企業が大きな影響を受けてきた。リモートワークの定着など行動様式も大きく変化し、DX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が改めて認識され、社会のあらゆる場面でその動きが加速しつつある。

新型コロナショックでCN化が加速

 こうした世界的潮流の中で、DXと並んで脚光を浴びているのが、世界的な脱炭素もしくはカーボンニュートラル(CN、炭素中立)化のトレンドである。

 脱炭素化を目指す世界的なトレンドは、デジタル化のトレンドと同様に、今回の新型コロナショックを機に新たに生まれたものではない。「気候変動に関する国際連合枠組条約(国連気候変動枠組条約)」の締約国会議(COP)の場で過去数十年にわたり、気候変動対策の観点から議論や取り組みが続けられてきたものである。

 実際、自動車産業界では、各国がこの流れを受けて強化した燃費規制への対応などから、脱炭素に向けた漸進的な取り組みを継続してきた。2015年にドイツを起点に発生したディーゼルゲート事件は、内燃機関(ICE、特にディーゼルエンジン)に対する各種規制に拍車をかけ、欧州を中心に規制強化の動きをさらに強めた。中国では、個別の産業政策の一環として、自国の自動車産業の国際的競争力を高めるために電動車の普及を推進した。これが脱炭素化を加速させるという効果もあった。

 一方、欧州が先駆けとなる形で、今回の新型コロナショックの前後にクローズアップされてきたのがCNのトレンドである。気候変動対策を人類共通の大義と位置づけ、特定の産業に閉じない形で「特定年次までのCN化の実現」という各国・地域全体の野心的な社会・産業目標として掲げた。その上で、バックキャスティングの形で各関連産業の産業構造変化を促し、新たな産業や成長機会を生み出そうというより大掛かりな枠組みとして定義した。

 この各国政府主導でのCN化の政策目標の提示を必要条件とみれば、CN化を加速させる十分条件は、新たな資金循環の拡大である。新型コロナショックに対する経済対策として金融緩和が一段と進んでおり、それに伴い余剰マネーが世界的に増加している。そうした余剰マネーが、デジタルに続く新たな成長分野と見立てられたCN化に大量に流れ込み、新たな資金循環が拡大している。

 この流れは、重層的に起こっている。各国政府側からのマクロな政策資金の投入に加え、ESG(環境、社会、ガバナンス)投資などの新たな投資先を模索する機関投資家などセミマクロ的な金融業界側の動きも出ている。GAFAM〔米Google(グーグル)、同Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)、SNS(交流サイト)「Facebook(フェイスブック)」の運営元である同Meta(メタ)、同Apple(アップル)、同Microsoft(マイクロソフト)〕やBATH〔中国・百度(Baidu、バイドゥ)、同・アリババ集団(Alibaba Group)、同・騰訊控股(Tencent、テンセント)、同華為技術(Huawei、ファーウェイ)〕など、デジタル経済の象徴として存在感を増すデジタル企業が、次なる投資先として再生可能エネルギーの活用や電気自動車(EV)を起点とするモビリティー産業への参入を加速させる中、産業の壁を越えたミクロな産業間の資金需要のシフトも生まれている。このため、デジタル産業の隆盛と同様に、一過性の動きではなく、今後数十年単位で続く不可逆的なトレンドとして捉えるべきであるとの見方が強まっている。