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 カーボンニュートラル(炭素中立、CN)を目指す世界的な潮流の中で、その実現手段として注目を集めつつあるCN燃料。今回は、その普及動向を占う上で理解が不可欠な各国政府のCN政策へのスタンスや取り組みの方針、さらには輸送領域における削減方針、およびその手段としてのバイオ燃料などのCN燃料の位置づけについて、見渡してみたい。

各国のCN化方針と背景

 近年の世界的なCN化の加速の1つの起点となっているのが、過去2年ほどの間に各国政府が競うように掲げた時限付きのCN化目標である。これらの目標は、国際連合(UN)の「気候変動に関する国際連合枠組条約(国連気候変動枠組条約)」の締約国会議(COP)を主な舞台に提示された(表1)。

表1 主要先進国におけるカーボンニュートラル(CN)化への目標と取り組み
EVは電気自動車、FCVは燃料電池車。(出所:各種公開情報を基にADLが作成)
表1 主要先進国におけるカーボンニュートラル(CN)化への目標と取り組み
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 先陣を切ったのは、欧州連合(EU)である。EUは、2020年3月に策定した長期戦略の中で、2050年までの気候中立(Climate Neutrality)を目標として掲げた。

 これに倣ったのが日本と米国である。2050年までのCN化を宣言した。主要先進国が足並みをそろえたことで、2050年がCN実現に向けた1つのターゲットとなった。EUや米国は、この実現に向けて100兆~200兆円規模の公的資金をCN化のための技術開発などに投資することを発表している。

 一方で、中国に代表される新興国は、当面は経済成長を重視するために先進国と同様のペースでCN化を実現することは困難とのスタンスを取る。中国がCN化の目標時期を2060年としているように、より長い時間軸でのCN化を目指す国が多数を占める。

 各国のCN化への方針に違いを生じさせるもう1つの要素が、二酸化炭素(CO2)排出量に占めるセクター別の比率である(図1)。CN化の実現のためには、現状でCO2排出比率の大きな産業セクターに向けた対策を優先する必要がある。ここで特に注目したいのは輸送部門の位置づけである。当然国ごとに特徴は異なるものの、概して欧米先進国はCO2排出量に占める輸送部門の比率が高くなっている。

図1 二酸化炭素(CO<sub>2</sub>)排出量における各国のセクター別比率
図1 二酸化炭素(CO2)排出量における各国のセクター別比率
(出所:International Energy Agency)
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 一方、日本や中国などは、輸送部門によるCO2排出量の比率は相対的に大きくなく、むしろ発電や産業セクターの比率が高い。これら非輸送セクターにおけるCO2削減の方が、優先順位が高いと言える。

 このような各国のセクター別のCO2排出量比率に大きく影響を与えている1つの要素が、各国の電源構成の違いである(図2)。相対的に輸送部門からのCO2排出量が多くなっている欧米諸国では、各種の再生可能エネルギー(RE)の活用や原子力などのCNな電源の比率が高くなっている。また、化石燃料ベースの発電の中でも、特に英国や米国では相対的にCO2排出量が少ない天然ガス発電の比率が高くなっている。

図2 主要国における電源構成とその変化(予測)
図2 主要国における電源構成とその変化(予測)
REは再生可能エネルギー。(出所:International Energy Agency)
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 これに対して日本や中国では、電源構成全体に占めるREの比率がまだ限定的である。加えて、日本では、以前は比率の高かった原子力も東京電力福島第一原発の事故以降は比率が下がっている。中国も原子力については建設途上にあり、現状では比率は大きくない。さらに、化石燃料ベースの発電においても、日本や中国ではCO2排出量が多い石炭発電が、重要なベース電源となっており、その比率が高止まりしていることも特徴である。

 これら発電部門における電源構成の比率の違いは、発電部門におけるCO2削減余地の大きさに直接的につながっている。また、間接的には、輸送部門における電動化がどの程度CO2削減に直結するかにも関係している。電動化は電力需要を増大させるとみられ、結果として国ごとのCO2削減における電動化の有効性にもつながっているのだ。輸送部門におけるCO2削減の重要性が高ければ、電動化に有利な電源構成に移行する必要がある。