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 カーボンニュートラル(炭素中立、CN)燃料の普及に向けて各国政府のCN政策と並び鍵を握るのが、既存の化石燃料の供給を担っている石油会社、いわゆる石油メジャーの動向である。ガソリンなど輸送用途向けの化石燃料の生産・供給を担ってきた石油会社各社だが、彼らもまた世界的なCN化の流れの中で、大きな影響を受けている。

大転換図る欧州系、限定的な米系

 海外の主要な石油会社は、大きく先進国(欧米)に基盤を持ちグローバルに事業を展開する「石油メジャー」と、特に新興国を中心に国内で独占的な地位を築いている「国営石油会社」に大別される(図1)。このうち、石油メジャーとしては、CN化の先進地域である欧州を本拠地とする英Shell(シェル)、同BP、フランスTotalEnergies(トタルエナジーズ)などと、米国系のExxon Mobil(エクソンモービル)などでは、その対応方針に温度差が生じている。

図1 石油会社各社のCN化に向けた方針
図1 石油会社各社のCN化に向けた方針
boe/dは石油換算バレル/日、REは再生可能エネルギー、GHGは温暖化ガス、LNGは液化天然ガスを指す。LNGバンカリングとは、洋上の船に専用船でLNGを補給すること。(出所:ADL)
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 端的に言えば、欧州系各社は、石油メジャーから総合エネルギー企業への転換を大胆に推進しているのに対して、米国系は、そこまでの大きな事業ポートフォリオ展開に向けた動きが現時点では見られていない。

 一方で、新興国が大半となる国営石油会社では、各国のCN化目標が先進国よりも10~20年程度先に設定されていることもあり、会社単体では2050年のCN化目標を掲げる中国石油天然気や中国Sinopec(シノペック)などの中国系も、足元では石油から天然ガスへのシフトなどの漸進的な動きが中心となっている。

 実際、現状(2020年時点)各社が公表している2050年時点での目標とする事業ポートフォリオの変化を見てみると、これら各社の温度差は明白である(図2)。CN化に対して最も積極的な姿勢を見せているのが、欧州の中でも最も先鋭的なCN目標を掲げる英国を本拠とするBPである。現在、石油販売などの川下ビジネスが売上高全体の9割を占めているところ、2050年には、再生可能エネルギー(RE)とCN燃料で売上高の6割を占めるような総合エネルギー企業への転換を企図している。

図2 石油会社各社における事業ポートフォリオの変革の方向性
図2 石油会社各社における事業ポートフォリオの変革の方向性
円グラフは売上高に占める比率を表している。川下ビジネスとは、石油販売などを指す。川上ビジネスとは、石油・ガスの探鉱・開発・生産などを指す。(出所:Speeda、各社IR情報、エキスパートインタビュー)
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 またBPに比べて現状で天然ガスや化学品などへの多角化が進んでいるシェルも、2050年にはREとCN燃料を合わせた事業の売上高の比率を45%程度まで引き上げるとの計画を発表している。ただし、現在オランダで、非政府組織(NGO)からさらなるCO2削減を求めて提訴された裁判の係争中であり、その結果次第ではポートフォリオのさらなる入れ替えを求められる可能性も出てきている。

 これに対して、中国石油天然気は、2050年のCN化目標はあくまでスコープ3(自社の事業活動に関連して他社が排出する温暖化ガスを削減すること)を含まない自社製造バリューチェーンに限定したものとしている。ポートフォリオの転換の最中にREとCN燃料を合わせた比率を35%程度まで引き上げるものの、同時に天然ガスの比率も30%程度まで拡大させるなどより多角化したものを想定している。

 一方で、ポートフォリオ転換に最も保守的なエクソンモービルは、2050年時点でも70%は既存の化石燃料ビジネスが残るとのスタンスである。CN化に向けた取り組みとしてはバイオ燃料が10%程度まで増えるという部分的なものにとどまる見込みである。

 このような石油会社各社の姿勢の違いは、CNに向けた具体的な取り組み状況からもうかがえる(表1)。2050年までにスコープ3まで含めたCN化を目指す欧州系の石油メジャー各社は、CN化に向けた施策に関しても全方位的な取り組みを進めようとしている。アジア系の国営石油会社各社も天然ガス・REへの転換や工程改善によるCO2削減、ガソリンスタンド運営など小売事業に関する転換などを共通して進める方針である。

表1 石油会社各社のCNに向けた取り組み
表1 石油会社各社のCNに向けた取り組み
(出所:ADL)
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 一方で、米系のエクソンモービルに関しては、CN化に向けた取り組みとしては、天然ガスへの転換や工程改善、CO2回収・貯留(CCS)の導入などに限定されている。この中で、CN燃料については、天然ガス転換などに続くCN化の方策として重点活動の1つと位置づけて推進する方針である。