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 前回までは、カーボンニュートラル(炭素中立、CN)燃料の普及をマクロ面から規定する各国政府の方針や将来の燃料供給元になり得る大手石油会社の動向を紹介した。今回からは、個別のCN燃料そのものについて現状の技術開発動向含めて見渡していく。今回は、CN燃料の中でも航空用途を中心に実用化が進みつつあるバイオ燃料の動向について整理してみよう。

油脂由来の第2世代、藻類由来の第3世代

 CN実現に向けた有力手段の1つとして注目を集めているのがバイオ燃料である。原材料や製造プロセス、および燃料としての最終生成物の種類の組み合わせによって、様々なものが開発・実用化されている(図1)。

図1 バイオ燃料の種類
図1 バイオ燃料の種類
UCOはUsed Cooking Oil(廃棄油)、FAMEはFatty Acid Methyl Esters(脂肪酸メチルエステル)、HVOはHydrotreated Vegetable Oil(水素化植物油)、SAFはSustainable Aviation Fuel(持続可能な航空燃料)のこと。(出所:ADL)
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 本連載の第1回でも概説したように、バイオ燃料は大きく3つの世代に区分される。従来の第1世代では食料と競合してしまい社会受容性が低いため、近年は第2世代(油脂・セルロース・廃棄物由来の炭化水素)、第3世代(微細藻類由来の炭化水素)といわれる次世代バイオ燃料の開発が進展している状況である。

 このうち第2世代に当たる油脂由来の炭化水素系バイオ燃料には、SVO(Straight Vegetable Oil、植物油)、FAME(Fatty Acid Methyl Esters、脂肪酸メチルエステル)、HVO(Hydrotreated Vegetable Oil、水素化植物油)の3種類が存在する。ただし、植物油をストレートに使用するSVOは、原料により性質が不安定で取り扱いが困難なことからほとんど製造されていない。FAMEとHVOが主となる。

 このうちFAMEは、植物油・廃食油など油脂類とメタノールからエステル交換反応によって生成するものである。軽油に近い性質を持つが、HVOと違って水素化処理をしていないため、従来燃料の主成分とされる炭化水素とは化学構造が全く異なる脂肪酸メチルエステルなどが主な成分となる。従来燃料と比べると、燃焼後の窒素酸化物(NOx)の増大や、低温流動性や腐食・劣化性能などの点で劣るとされている。

 このため、化石燃料由来の従来燃料との混合利用が前提となる。バイオエタノールあるいはバイオディーゼルへの従来燃料の混合割合は各国で様々であり、特にバイオ燃料大国であるブラジル、インドネシア、マレーシアなどでは高い混合率が見受けられる。

 一方、HVOは、油脂類を直接水素化処理して生成したパラフィン系炭化水素である。FAMEと異なり、従来燃料との混合を前提とせずに単独での利用が可能である。バイオ燃料の中では将来の本命技術とみられる。また、HVOの中でも特に航空機用のジェット燃料としての規格を満たした燃料は、SAF(Sustainable Aviation Fuel)と呼ばれている。

 国際エネルギー機関(International Energy Agency、IEA)などの予測によると、2025年までの短期では、従来型(第1世代)のバイオエタノールとバイオディーゼルが、食料競合もあり横ばいで推移する見込みである(図2)。一方で今後はHVOや油脂由来のSAFの需要が増していき、市場をけん引する見通しである。中長期でみると、2050年までには従来型バイオ燃料の割合が減少し、次世代燃料であるHVOやSAFが急増する。また、その原料も短中期的に有望視されている油脂由来からセルロース・廃棄物由来のものへと進化していくことが予測されている。

図2 バイオ燃料市場の市場規模予測
図2 バイオ燃料市場の市場規模予測
CAGRは年平均成長率、EJは10の18乗ジュール(J)のこと。(b)の先進型バイオディーゼルがHVO、バイオジェットがSAFに相当する。ケインとは、サトウキビやトウなどの硬い茎の部分のこと。(出所:International Energy Agency 『Global biofuel production in 2019 and forecast to 2025』、同『Aviation fuel consumption in the Sustainable Development Scenario, 2025-2040』、ICAO 『Stocktaking results』を基にADLが作成)
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