前回は、合成燃料の原料ともなるカーボンニュートラル(CN、炭素中立)な水素の動向について整理した。今回からは、バイオ燃料と並び、輸送機器用のCN燃料として注目を集めている合成燃料(e-fuel)について2回にわたってみていく。前半では、まず水素と並び合成燃料の原料となる二酸化炭素(CO2)の回収方法について解説する。
合成燃料の実用化の鍵はCO2分離・回収技術
合成燃料の製造方法としては、さまざまなプロセスが検討されている(図1)。この中で、CN燃料として認定を受けるには、基本的には水素(H2)とCO2を原料とする必要がある。ここで重要になるのが、合成ガスの生成に必要な多量かつ高濃度なCO2をいかに確保するか、という点である。CO2自体は、大気中にも一定程度含まれているが、合成燃料などの工業原料として利用するためには、その分離・回収技術が鍵となる。
また、大気中のCO2は温暖化ガスの1つでもあるため、CO2を回収することで大気中のCO2濃度を下げることができれば、より直接的に地球温暖化対策にも貢献できるという一石二鳥の効果も期待できる。
このような背景から、近年、CO2回収・有効利用・貯留(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage、CCUS)と呼ばれる技術が注目を集めている(図2)。CCUSは、CO2回収・貯留(Carbon dioxide Capture and Storage、CCS)とCO2回収・有効利用(Carbon dioxide Capture and Utilization、CCU)に大別される。
CCSは、プラントなどのCO2発生源や大気中からCO2を分離・回収し(Carbon Capture)、回収したCO2を大気に放出しないように地中貯留もしくは海洋隔離を行う技術。CCUは、CO2を作動流体として直接活用したり合成燃料や化成品などへ有価変換したりすることによって活用する技術とされる。
CNな合成燃料の製造工程に即してみれば、CCSは原料であるブルー水素の製造プロセスで発生したCO2の回収・貯留で利用され、CCUは合成燃料のもう一方の原料であるCO2の製造に用いられる。
このようなCCUS技術を実用化していく上で鍵となるのが、前段のCO2の分離・回収技術であり、さまざまな手法が提唱されている。代表的なCO2発生源の1つである火力発電所を例にとると、回収工程としては、化石燃料の燃焼後の排出ガスからCO2を分離・回収する方法が一般的である。その回収方法としては、化学吸収法、物理吸収法、物理吸着法、膜分離法の4つの方式が提唱されている(表1)。
この中で、現在、商用化レベルに至っているのは化学吸収法のみであり、さらなる普及に向けては現状の2分の1~4分の1程度と大幅なコスト低減が求められる段階にある。
一方で、火力発電所のような既存のCO2発生源からではなく、大気中のCO2を直接分離・回収する技術であるDAC(Direct Air Capture)にも近年注目が集まっている。DACに関しても、CO2の分離・回収の方式としては、CCUSと大きく変わらず化学吸収法、物理吸着法、化学吸着法、膜分離法などがある。現在の技術レベルでは化学吸収法と化学吸着法がDACにおけるCO2分離方法としてリードしている状況だが、各方式において分離効率化によるエネルギーコスト削減が課題として挙げられる(表2、3)。