今回も、輸送機器の用途別のカーボンニュートラル(炭素中立、CN)化動向を見ていきたい。前回は、一般消費者のユーザーが多い四輪乗用車や二輪車を中心に解説した。今回は企業ユーザーが中心の商用車(トラック、バス)や建機・農機などオフロードビークル、フォークリフトなどの産業用車両を中心にCN化の動向を見渡してしてみる。
これら産業用車両の領域では、現状ではその動力源として主にディーゼルエンジンを活用しているという共通点がある。だが、CN化の方向性については、アプリケーションによって、排ガスゼロ車(Zero Emission Vehicle、ZEV)の導入を促す規制があるかどうかで異なっている(図1)。
一部の国・地域において乗用車と同様にZEV規制が存在するバス・中大型トラックにおいては、短期的には低炭素化の効果は限られるもののコスト優位性のあるガスエンジンの普及や中長期に向けての燃料電池の開発などが進みつつある。一方で、ZEV規制の導入が進んでいない建機・農機・フォークリフト向けには、ディーゼルエンジンメーカーも具体的な開発方針を見いだしていないなど温度差が見られるのが実態である。
商用車は技術的成立性の担保が課題
バスや中大型トラックなどの商用車の領域では、各国・地域政府がCN化に向けたさまざまな目標の導入を進めている(表1)。この中で、最も厳しいZEV規制を導入しようとしているのが米カリフォルニア州である。2045年までのZEV化を目標としている。一方で、欧州連合(EU)・中国・米連邦政府などは、2030年ごろまでは燃費や二酸化炭素(CO2)排出量の形での規制強化を進める方針である。
もっとも、その実現手段については、電動化、水素、新燃料などさまざまなものを試みている段階である。規制強化の先端を走るカリフォルニア州や欧州でもこれらの各手段を並行して検討している段階であり、充電や水素充填のためのインフラ整備を推進している。中国は商用車については、燃料電池車(FCV)を軸に据え充填ステーションの整備を推進している。
このように、商用車領域の法規制強化が、乗用車のような電動化の加速といった特定の技術手段の普及につながっていないのは、技術成立性の面で課題が残っているからである。
中大型の商用車の場合、電気自動車(EV)化は、技術的な成立性の観点で課題を抱えている。航続距離が限定される路線バスを除き、求められる航続距離を実現するためには、搭載容量が犠牲になるレベルの大容量の電池搭載が必要になり、そのための充電時間によって稼働時間が犠牲になるためだ。これを解消するために、一部バッテリー交換方式や走行中の非接触給電方式なども検討されているが、まだ実証段階にあり実用化にまでは至っていない(表2)。
燃料電池においても、日本国内含めて路線バスでは実用化事例が出てきているものの、航続距離を担保するには搭載可能な水素タンクの容量が課題になる。加えて、水素供給インフラの整備も課題だ。
このほか、圧縮天然ガス(CNG)/液化天然ガス(LNG)といった天然ガスの利用は、日本では近年CNGトラック、バス共に普及が停滞している。一方、海外ではCNG/LNG共にバス・トラックでの実用化が進みつつある。ただし、あくまで低燃費化のための手段との位置付けであり、ガス側のCN化が進まない限り、CN化の手段とはなり得ない。
また、バイオ燃料や合成燃料などCN燃料の開発・導入もまだ実証段階にあり、短期的にはCN化実現の手段とは見られていない。このように、各政府が具体性ある手段が打てないのは、中大型の商用車の中で比率の高い大型トラックにおいて、CN化対応への技術の実用化が遅れており、CN化への解決策が見いだせていないためといえる。
中大型商用車で唯一電動化が進みつつあるのは路線バスである。電動バスを世界的に展開する中国・比亜迪(BYD)のお膝元の深センでは、政府の補助金投入により市内のバスとタクシーはほぼ100%EV化を達成している例も出てきている。