SAFが本命の航空機、調達フェーズへ
CN化実現の手段として複数の候補を挙げ、いまだ検討・競争フェーズにある船舶に対し、中・大型航空機では、CN化実現の手段はSAFであるとすでに合意がなされた。
SAFとは「持続可能性のクライテリア(基準)を満たす、再生可能または廃棄物を原料とするジェット燃料」とされており、バイオ燃料ベースが有望視されている。
ICAOが発表したGHG削減は、「2020年以降総排出量を増加させないこと」を目標とし、(1)新技術の導入(新型機材/装備品など)、(2)運航方式の改善、(3)SAFの活用、(4)カーボンオフセットを促す市場メカニズム「国際民間航空のためのカーボン・オフセットおよび削減スキーム(CORSIA)」の導入――を手段として宣言した(図2)。
さらに、ICAOの動きは、同機関内の航空環境保全委員会(CAEP)において、SAFの導入ロードマップを提示しており、CN燃料であるSAFの導入を航空業界の国際機関として宣言している点が特徴である。
さらに、2021年の世界経済フォーラムでは、ICAOにも加盟する企業を含んだグローバルな航空会社グループや空港、燃料供給企業、機体・エンジンメーカーら60社が、2050年までにGHG排出量ゼロを目指すために、2030年までにSAFの割合を10%に増加させる「2030 Ambition Statement」に署名し発表した。
従って、中・大型航空機の分野においては、どのようにSAFを確保・調達していくか、というフェーズにすでに移行しているといえる。
米国の有力航空会社である米American Airlines(アメリカン航空)や米Delta Air Lines(デルタ航空)は、2050年までのGHG排出量ネットゼロ(正味ゼロ)を掲げており、SAFの確保に向け、フィンランドのエネルギー企業Neste(ネステ)との購入契約の締結などを発表。特にデルタ航空は、ネステとの契約に加えて米国の再生化学製品・バイオ燃料企業であるGevo(ジーヴォ)と年間1000万ガロン、同じく米国の第2世代バイオ燃料企業Northwest Advanced Bio-Fuels(ノースウエスト・アドバンスド・バイオフューエルズ、NWABF)と年間6000万ガロンのSAF購入の契約を予定、2030年末にはジェット燃料の10%をSAFに置き換える計画を具体化させている。
日本でも、2022年3月に日本航空(JAL)や全日本空輸(ANA)を中心としてSAFの安定供給に向けた企業コンソーシアム「ACT FOR SKY」が結成された(図3)。ACT FOR SKYの活動内容は国産SAFを通じた脱炭素社会の議論や、課題の議論、情報共有・啓蒙などが掲げられている。参加企業はSAFを必要とするJALやANAなどの航空会社の他、燃料製造会社、プラントエンジニアリング会社、流通を担う商社や鉄道会社などで構成されており、SAFの大量調達に向けたサプライチェーンの構築を目指しているものと考えられる。
これら、国際機関・各航空会社らのSAF調達に向けた動きは、極めて高いエネルギー密度と出力密度が求められる航空機においては、従来同様の液体燃料を用いる以外に当面は技術的解決策が見つからないことを意味している。
電動化については、超小型の貨物輸送機や1~2人乗りの短距離型ドローンなどであれば、要求される出力密度やエネルギー密度が限られるため実現可能とみられている。ただし、これらは従来の航空機とは異なるカテゴリーとなる。中型機における電動化も議論されているが、まだコンセプトと可能性の模索のフェーズである。
水素エンジンの採用について、欧州の大手航空機メーカーであるAirbus(エアバス)が2035年までの水素エンジン航空機の実用化を目標として掲げている。水素旅客機構想「ZEROe」として、100~200人乗りの1000海里(1852km)程度の飛行による陸内輸送を目的とした航空機や、2000海里(3704km)程度となる大陸間飛行に対応した航空機などのコンセプトを複数発表している。ただし、エアバスもSAFを重視しており、水素エンジンの導入目標である2035年に先立つ2030年にはSAF100%の運行実現を掲げている。
エアバス以外の航空機大手はSAF導入に注力している状況である。米・航空機大手のBoeing(ボーイング)は、2010年代初頭までは水素に関する取り組みも実施していたが、現在はSAFと都市内利用における電動化に注力している。
SAFも当面は従来ジェット燃料との混合活用が考えられるが、将来のSAF100%での運行実現に向け、先に述べたエアバスに加えボーイングも2030年までにSAF100%での運行実現を目標としている。ボーイングは2021年に航空機エンジン大手の英Rolls-Royce(ロールス・ロイス)と共同でSAF100%のテスト飛行を実現させている。
SAFの活用に向け、大きな課題はサプライチェーン確立による大量調達手段の確保である。
CN燃料実用化をSAFがけん引の可能性
繰り返しになるが、SAFの定義は再生可能または廃棄物を原料とするジェット燃料である。現時点で有望視されているバイオ燃料に加え、水素と二酸化炭素(CO2)を原料とした合成燃料ベースのジェット燃料も製造可能となればSAFとされる。
また第4回でも触れたように、航空機はそもそもがプレミアムを払っての高速輸送という性質から、燃料の購買力も強い傾向がある。
すでに航空機業界はSAFをどのように大量調達するか、のフェーズに移行しており、CN液体燃料の実用化/大量生産は航空業界のSAFニーズが強力なドライバーとなる可能性が極めて高いと言えるだろう。