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独自のレンダリングエンジンは将来への布石か

 「ヘッドトラッキングに異様なまでに力を入れている」と前述したが、これには理由がある、Apple Musicなどの音源再生時のDolby Atmosのバイノーラル処理で、アップルは、米Dolby Laboratories(ドルビーラボラトリーズ)が提供する「Dolby Atmos Renderer」を利用せず、独自の空間オーディオ用レンダリングエンジンを実装し利用している。

ドルビーラボラトリーズが提供する「Dolby Atmos Renderer」で処理したバイノーラルの空間オーディオは、Apple Musicだけ音像やバランスが異なる
ドルビーラボラトリーズが提供する「Dolby Atmos Renderer」で処理したバイノーラルの空間オーディオは、Apple Musicだけ音像やバランスが異なる
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 これは、H1チップと連携したヘッドトラッキングなどの空間処理を実現するための措置だと思われるが、これが原因で、レコーディング業界では「Apple Musicのバイノーラルだけ音が違う」と問題になっている。

 Dolby Atmosに対応しているのだから、ドルビーラボラトリーズが提供するエンジンを使えば、レコーディング業界で問題になることなどなかったのだが、アップルとしては、独自のレンダリング処理をしてでもヘッドトラッキングを含めた、よりリアルな空間処理にこだわった結果なのかもしれない。同時に、音の出口の部分を自社のコントロール下においておきたいという意図もあるのだろう。

 アップルのこだわりは、まもなく登場が噂されるアップルのVR/ARメガネが実現するメタバースにおいて、最高のユーザー体験を提供するためだと考えている。筆者の妄想的予測が現実のものになることを期待している。

山崎 潤一郎(やまさき じゅんいちろう)
ITジャーナリスト
音楽制作業を営む傍らIT分野のジャーナリストとしても活動。音楽制作業では、クラシック音楽やワールドミュージックといったジャンルを中心に、多数のアルバム制作に携わる。ITジャーナリストとしては、講談社、KADOKAWA、ソフトバンククリエイティブなどから著書多数。鍵盤楽器アプリ「Super Manetron」「Pocket Organ C3B3」などの開発者であると同時に演奏者でもあり、楽器アプリ奏者としてテレビ出演の経験もある。音楽趣味はプログレ。