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 日経クロステックは、2022年春に販売されていた「鼻の不快感を軽減させる」という機能性を表示する製品の科学的根拠について調査した(図1)。

図1 「鼻の不快感軽減」の機能性を表示する製品
図1 「鼻の不快感軽減」の機能性を表示する製品
日経クロステックが科学的根拠を調査した機能性表示食品3点。左から、森永乳業「ビヒダスヨーグルトKF」、カゴメ「野菜生活100 Care+(ケアプラス)柑橘mix」、キユーピー「ディアレ」。雪印メグミルク「乳酸菌ヘルベヨーグルト」も調査したが、上記3点と比べて適切な根拠があるため、ここでは除外した(出所:各社)
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 医師および臨床統計の専門家が指摘した問題点は大きく2つある。

(1)評価項目を多数設定して不適切な多重検定を行っている

(2)解析除外者を多数出している

 このうち、(1)は前回の記事で取り上げた。今回は、(2)の解析除外者を出しているという問題点について解説していく。

 3社の臨床研究論文(以下、論文)はいずれも、割付け〔わりつけ、被験者を試験品群またはプラセボ(偽薬)群に分けること〕た被験者の中から、試験期間中または試験終了後に1~3人の脱落者および8~15人の解析除外者を出している。割付けられた被験者の約14~30%に当たる人数だ。脱落や解析除外の理由としたのは、食品摂取率の基準値以下であることや、試験責任医師の判断などである。

 この点について鼻のアレルギーを専門とする都内大学病院耳鼻咽喉科勤務の医師は、「多過ぎる。試験の管理が不十分か、あるいはデータを良く見せたくて操作したと考える余地がある」と指摘した。また、臨床統計学が専門の大阪公立大学医学研究科臨床医科学専攻教授の新谷歩氏は、「解析除外者を出すと、当初の割付けとは異なるグループで解析することになり、結果の偏りが生まれてしまう。こうしたバイアスを排除するために、ITT解析に則(のっと)ってプロトコル(試験実施計画)を逸脱した被験者を含めて解析すべきだ」と述べた。

ITT解析=臨床試験において、初めに割付けられた通りに解析すること。

 特にカゴメは、「事前検査では選定基準に該当していたが、試験終了後に、試験開始時の重症度分類スコアが選定基準から外れていたと判明した」、あるいは「被験者が風邪を引いた」ことを理由に多数の解析除外者を出している。前者については、機能性表示食品の臨床試験は原則として健康な人を対象とする必要があり、アレルギー性鼻炎の重症者は試験に組み入れられない。「事前検査で重症者でなかったから組み入れたが、一部の被験者は試験開始時に重症化してしまった。だから解析除外した」という主張である。同社は日経クロステックの質問に対し、「解析除外のタイミングが試験終了後となったのは、試験開始以降のデータが試験終了後のキーオープン(盲検化解除)まで確認できなかったため」(同社)と回答した。

 だが、問題はその人数だ。2つの論文で、それぞれ39人中8人(重症化8人、風邪0人)、95人中14人(重症化4人、風邪10人)と、多くの被験者が事前検査から試験開始までの間に重症化したり風邪を引いたりしてしまったことになる。重症化の点について機能性表示食品に関する調査事業で委員長を務めた東京農業大学 教授の上岡洋晴氏は、「機能性表示食品の臨床試験の場合、重症化を理由とした解析除外は致し方がないともいえる。だが、1度の試験で5~10人も除外者を出すようなら、恣意性を疑われても仕方がないかもしれないし、試験の失敗ということにもなるだろう」と指摘する。

 多数の解析除外者を出すことについては、倫理的な側面からの問題もある。「臨床試験では一定期間、被験者の生活に介入して実施している。被験者の協力を得て取得したデータを無駄にすることなく解析することが望ましい」(大阪公立大学医学研究科臨床医科学専攻特任講師の今井匠氏)。

 実は、3社の論文には他にも問題点が見つかっている。「サンプルサイズ(被験者数)設定の合理的根拠が示されておらず、不十分な被験者数で実施している可能性がある」「『探索的試験』(第2相試験)を経ずに『検証的試験』(第3相試験)を実施している」、などである。個別の論文を見ると、「一般に意味を持たないとされる群内比較の結果を載せ、読者に有効性を不当に示唆させる」「花粉を含めたアレルギー性鼻炎に関する試験を夏季に実施している」、などの問題点も挙げられる。

研究レビューも不適切な可能性

 こうした論文を基に作成した研究レビューも、科学的根拠の質が低い可能性がある。森永乳業の「ビヒダスヨーグルトKF」の研究レビューがそうだ。この製品の「花粉、ホコリ、ハウスダストなどによる鼻の不快感を軽減する機能」についての研究レビューは、4報の論文を採用し、うち2報で肯定的な結果が報告されている。

 ところが、そのうちの1報の機能性関与成分(ビフィズス菌BB536)の菌数が、最終製品と大きく異なっていた。最終製品に含まれる菌数は40億個だが、論文では1000億個だった(図2)。25倍もの菌数で試験した結果を、なぜ有効性の根拠にしたのか。

図2 「結果」と「結論」に論理の飛躍の可能性
図2 「結果」と「結論」に論理の飛躍の可能性
森永乳業の研究レビューの抜粋。「結論」には「ビフィズス菌BB536を40億個以上含む食品を摂取することで、花粉、ホコリ、ハウスダストなどによる鼻の不快感が軽減すると考えられた」と書かれている。ところが、このうち花粉による鼻の不快感軽減は、「1000億個のビフィズス菌BB536」で検証された論文を根拠にしているとみられる。40億~1000億個の菌数では花粉による鼻アレルギーへの有効性が明示されておらず、科学的根拠が不十分な可能性がある(出所:消費者庁HPにアップロードされた研究レビューを日経クロステックがキャプチャー)
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 この疑問を森永乳業に問うと、次のような趣旨の回答が得られた。「研究レビューの結論が『ビフィズス菌BB536 を40 億以上含む食品を摂取することで、健常者の花粉、ホコリ、ハウスダストなどによる鼻の不快感が軽減されると考えられた』となっているため、1000億個のデータを根拠に使った」(同社)。要は、「40億個」ではなく、「40億個以上」と研究レビューの結論に記載したため、1000億個の論文は根拠になるという理屈だ。だが、「1000億個のビフィズス菌BB536で有効性がみられた」ことを根拠に「40億個以上のビフィズス菌BB536で有効性がある」と主張するのは、必要条件と十分条件を取り違えた誤謬(ごびゅう)である。

 この研究レビューは、最終製品の機能性の科学的根拠として不適切な可能性がある。「花粉、ホコリ、ハウスダストなどによる鼻の不快感を軽減する機能」のうち、「花粉」への有効性の根拠として明示しているのは菌数1000億個の論文であり、最終製品と同じ40億個の菌数での有効性の根拠は明示されていないからだ。

 なお、森永乳業は有意差が得られなかった残りの2報については、「鼻の不快感軽減について統計学的な有意差には至っていないが、不快感を軽減する傾向がみられた。目の症状に関しては統計学的な有意差が得られた。そのため、2報とも有効性について肯定的」といった趣旨のコメントを寄せた。前半のコメントは、p値(有効性がないにもかかわらず、偶然にも有意差がみられる確率)が有意水準を下回らなかったものの、ある程度改善傾向を示したことを指して主張しているようだ。だが、有意差に至っていない以上、科学的根拠として用いるのは不適切と言われても反論できないだろう。後半のコメントも、「鼻の不快感軽減」の根拠に目の試験結果を持ち出しているのだから、不適切とみなされる恐れがある。

 一方、森永乳業は同一製品において、「大腸の腸内環境を改善し、腸の調子を整える機能」という表示もしている。こちらの研究レビューは、アレルギー性鼻炎に関する研究レビューとは異なり、複数の研究結果を定量的に統合解析する「メタアナリシス」を実行している他、採用文献7報の掲載元に前述の商業誌が含まれていない。よって、「鼻の不快感軽減」の機能性よりは、科学的根拠の質が高い可能性はある。