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大学もスタートアップのすそ野拡大へ積極的に取り組む。東京大学を筆頭に、研究室の知見にものづくりの経験を積ませて起業家輩出を加速させる。

 過去5年で8割増。経済産業省の「大学発ベンチャーデータベース」による大学発ベンチャーの総数だ。2021年度に3306社に達した。起業家の有力な輩出元として、大学も動きを加速している。

 先頭を走るのが東京大学だ。経産省調べによると2021年度の企業数は329社で、2位の京都大学(242社)に80社以上の差をつける。

100時間でアイデア100件、ものづくり実践を起業へ

 東京大学は起業の知見も蓄積しつつある。今後もさらにスタートアップを生み出すため、大学や研究室からアントレプレナーシップ教育やプログラムを提供する。

 特徴はものづくりのプロジェクトを起点にスタートアップ創業へとつなげる点だ。2022年2月、新たなものづくりプロジェクト「100 Program」を開始した。ロボットやソフトウエアなど、「何か」開発してみたいが、アイデアや技術、チームなどが無い学生を参加対象とする。東京大学以外の学生にも門戸を開く。

東京大学産学協創推進本部の提供プログラムを経て起業する流れ
東京大学産学協創推進本部の提供プログラムを経て起業する流れ
(写真:東京大学産学協創推進本部)
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 参加者は長期休みの間の7週間で1人100時間の開発に取り組む。参加者全員で合計100個のアイデアを出し、最後に発表する。開発経験の無い学生は、運営事務局が案内する学習教材などを使いながら技術を学び、開発する。エンジニアやデザイナー、卒業生の起業家などが技術サポーターを務めるほかに、開発活動の支援金も提供する。

 100 Programを経て、起業に関心を持った学生はアントレプレナー道場に進める。起業に必要な知識を学んだりグループワークに取り組んだりする講座で、2005年に開講した。

 開発に集中したい学生は春/夏休み期間中に、技術プロジェクトや開発に向けて、資金や施設を大学が支援する「Founders Program」に応募し、開発する道もある。ものづくりの延長線上として起業に導くというわけだ。

 同プログラムは2015年に始まり、スタートアップの誕生にもつながっている。例えばAI(人工知能)で漫画に特化した機械翻訳エンジンを開発するmantra(マントラ)や、いちごなどの受粉や収穫を自動化する栽培ロボットを開発するHarvestX(ハーベストエックス)などが同プログラムを経て起業した。

 東京大学は、一度社会人を経験した卒業生も重要な起業家予備軍と位置付け、施策を打つ。卒業生を対象とした起業支援プログラム「FoundX」だ。創業間もないスタートアップが資金調達をするまでの約9カ月間、インキュベーション施設を利用できる。資金調達前で状況の近いスタートアップが複数社同じ施設でプログラムを受けることでコミュニティーをつくる狙いもある。東大の同プログラム担当者はが資金調達に向けた事業計画・調達計画の相談に乗り、必要な知識を提供する。資金調達の契約の確認なども支援する。

 アントレプレナー教育でスタートアップの経営や働き方などを理解した人を育成し、プログラムを通じてハードウエアなどの開発環境を提供する。東京大学の菅原岳人産学協創推進本部スタートアップ推進部ディレクターは 「スタートアップが育つ要素をそろえることでエコシステムが有機的に回るようにしていきたい」と今後への期待を語る。