産官学が始動し、起業の方法論や制度は整いつつある。吹き始めた追い風を、次の成長産業育成へと効果的に生かせるか。起業経験者や投資家が指摘する3つの提言をまとめた。
次代の成長産業をつくるのであれば、スタートアップの振興そのものを目的にすべきではない。逆説的だが、これがVC(ベンチャーキャピタル)や起業経験者の一致した意見だ。
スタートアップそのものは課題解決の手段にすぎない。既存の大企業や組織には解決しづらい課題があるからこそ、スタートアップという器を新たにつくって挑戦するはずだ。課題を明確にしないままスタートアップの質と量を増やそうとするのは本末転倒であり、目的の達成はおぼつかないだろう。
国が経済政策としてスタートアップを育成するのなら、イノベーションを起こしやすくするために規制改革や法整備の方向性を明確にする必要がある。ソフトウェア協会の会長を務めるさくらインターネットの田中邦裕社長は「既存の枠組みや仕組みが壊されるとなると反発は当然。変革を断行するためには強い意志で方向性を示さねば変わらない」と強調する。
社会課題の解決を図る産業を
では具体的にどのような産業を育成すべきなのか。最先端を知るVCら「目利き」たちが多く挙げるのがディープテックだ。世間に深く根ざした社会課題を高度な科学やテクノロジーの力で解決する事業や分野の総称である。
多くのVCがディープテックを有望視するのは、社会的に意義が大きいからだけではない。世界的に市場が未成熟で、日本が今後勝ち抜ける余地が少なくないとみているからだ。「ソフトウエアだけで勝負する時代は終わった。ハードウエアの力を生かして、ソフトウエアの力を現実世界の課題解決に生かす領域が今後ますます重要になる」(ディープテックへの投資に実績のあるVC、15th Rock創業者の源健司ジェネラルパートナー)。
米国の「GAFA」をはじめとするITの巨人はソフトウエアの力で覇権を握った。一方、ソフトとハードの組み合わせから成るディープテックは、ハードウエアの開発に強みを持ち続けてきた日本の技術を生かせる余地が残っているとの見立てだ。「日本のスタートアップが世界に進出する上で、(ロボティクスなど)優れた日本の技術力を使うディープテックは勝負できる可能性がある」(グローバル・ブレインの百合本安彦社長)。
ディープテックは一例だ。スタートアップ後進国を挽回するなら、目的と手段をいま一度精査すべきだろう。