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 DX(デジタルトランスフォーメーション)ではシステムを短期間で開発・改善しリリースを繰り返す体制が求められる。しかし開発のスピードを上げることで品質が悪化すれば、そのための改善が必要になり、結局はスピードを損なう。品質を保ちながら開発スピードを上げるうえで鍵を握るのはテスト工程だ。品質を担保する工程であるのに加え、大きな工数を要するからである。

 従来、開発現場によっては、画面定義書を見ながらテストケースを作成し、キー入力と目視でチェックするといった作業を繰り返すことがある。複雑なシステムを改修する際は、変更した箇所の影響を確認するリグレッションテストを人手で行うケースも多い。テスト作業の多くは労働集約型になりがちだ。

 こうしたテストの工数を減らせる「テストAI(人工知能)ツール」が登場している。ここではSBI生命保険とZOZOの事例からテストAIツールの効果を探る。

システム連携テストの工数を半減

 SBI生命保険はアミフィアブル(東京・目黒)のテストAIツール「MLET.Ⅱ(エムレット ドットツー)」を採用し、工数削減に取り組んでいる。MLET.Ⅱは専用フォーマットで記述された画面定義書や、テスト対象画面をAIで解析し、テストデータやテストケース、ユーザーインターフェース(UI)の自動テストツール「Selenium(セレニウム)」のテストスクリプトなどを生成する。

 SBI生命保険は全国の金融機関と、自社の団体信用保険システムとの接続を進めている。金融機関が住宅ローンを融資する際、団体信用保険としてSBI生命保険の商品を販売するためだ。金融機関との接続には、保険加入者の情報をやり取りするのに疎通テストや画面経由の帳票出力テストなどが必要になる。SBI生命保険の池山徹取締役兼執行役員情報システム部担当団体保険部担当は「テストに圧倒的な作業量が必要となり、手作業では限界だった」と説明する。

 根強い住宅取得需要もあり、SBI生命保険のシステムと接続する金融機関の数は増加。2022年7月だけでも約20の金融機関と新規に接続しなければならず、今後の増加も見込まれていた。SBI生命保険はテストを手作業で実施していたが、「このままではテスト工数が膨れ上がり、金融機関との接続が遅延してしまう恐れがあった」(池山取締役)。

 金融機関との接続が遅れれば、それだけ商機を逸してしまう。そこでSBI生命保険は2021年からPoC(概念実証)を進めていたMLET.Ⅱを活用することにした。画面経由の帳票出力テストと画面間を連携する際のリグレッションテストをMLET.Ⅱで実施。さらにアミフィアブルが現在開発中の「バッチ処理の結果をテストする仕組みも一部取り入れた」(SBI生命保険の狩野泰隆情報システム部技術担当部長)。

AIツール導入前後のテストプロセスの違い
AIツール導入前後のテストプロセスの違い
(出所:アミフィアブル)
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 MLET.Ⅱの導入効果はすぐに表れた。手作業で実施していた帳票出力テストは8割の工数削減につながった。既にSeleniumによるテスト自動化が進んでいた画面間連携テストでも3割強の工数を削減できたという。「システム連携テスト全体で試算すれば、テスト工数が半減した」(SBI生命保険の狩野担当部長)という。