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 近年における「すごいAI(人工知能)」の代表格である巨大言語モデルが、日本語でも威力を示し始めた。LINEが構築した390億パラメーターの日本語版巨大言語モデル「HyperCLOVA」は、謝罪メール作成や議事録要約、詩や小説の執筆といった様々なタスクで、非常に流ちょうな日本語の文章を生成している。驚くべき能力の一端を紹介しよう。

 メール作成や議事録の取りまとめ、コールセンターでの顧客対応などは多くの業種で発生する業務だ。共通するのは必要な情報を理解・抽出し、相手に合わせて端的に伝える能力で、社会人にとって不可欠なビジネススキルといえる。最新の巨大言語モデルは人間のインプットに応じて的確に意図をくみ取り、業務をサポートする存在となりつつある。

箇条書きからビジネスメール文を生成

 「いつもお世話になっております。先日は、弊社のミスにより納期の遅延が発生し、大変ご迷惑をおかけいたしました。心よりおわび申し上げます。今回の件につきましては、私の確認不足によるものであり、多大なご迷惑をおかけいたしました。今後は二度とこのようなことがないよう、細心の注意を払い業務に取り組む所存でございます。何卒、ご容赦くださいますようお願い申し上げます。納品日につきましては、本日15時までにお届けいたします。今後とも、変わらぬご愛顧を賜りますようお願い申し上げます」――。

 謝罪の気持ちを伝える、いかにもこなれたビジネスメール。頻繁にメールを書くビジネスパーソンでも、作成に数分はかかりそうだ。しかしこの文面、実はLINEが2021年に構築した巨大言語モデルであるHyperCLOVAが、人間による雑な文言に基づいて生成したものだ。

伝えたい要素を入力するだけで簡単にビジネスメール文書を生成する
伝えたい要素を入力するだけで簡単にビジネスメール文書を生成する
(出所:LINE)
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 人間がHyperCLOVAに与えた謝罪文の原案は「入稿遅れててごめん。こっちの手違いで日にちを間違えました。今日の15時までに届けるね。今後気をつけます」と箇条書きでフランクに記したもの。HyperCLOVAはそこから人間の意図をくみ取り、失礼にならない謝罪メールを生成した。

 HyperCLOVAは謝罪メールだけでなく、お礼メールや業務連絡メール、業務日報や営業報告書なども作成できる。いずれも人間が箇条書きで内容を列挙すると、HyperCLOVAが丁寧な文面を生成する。

会議のポイントを自動要約

 議事録要約も可能だ。話し言葉で記述された議事録を与えると、HyperCLOVAはその内容を理解したうえで会議の「議題」と「決定事項」「次のアクション」が何かを要約してくれる。

議事録のテキストを入力すると、ポイントごとに要約する
議事録のテキストを入力すると、ポイントごとに要約する
(出所:LINE)
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 HyperCLOVAは小説や詩、歌詞などの創作もする。小説であれば人間が大まかなプロットを与えると、HyperCLOVAが情景や登場人物間の会話などのディテールを補って本文を生成してくれるのだ。

プロットを与えると、情景や会話などを補って小説を生成する
プロットを与えると、情景や会話などを補って小説を生成する
(出所:LINE)
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 これらはLINEがHyperCLOVAの性能を検証するために開発したアプリケーション「HyperCLOVA Writer」が備える能力だ。現状ではLINE社内でのみ利用できる。バックエンドでは日本語の文章で事前学習を済ませた390億パラメーターのHyperCLOVAが稼働している。

 HyperCLOVAは米NVIDIA(エヌビディア)がオープンソースソフトウエア(OSS)として公開する「Megatron-LM」をベースに、LINEと韓国のNAVERが共同で開発を進める言語モデルだ。

様々な能力をプログラミング不要で開発

 驚くべきは文章の流ちょうさだけではない。実はHyperCLOVA Writerが備える各種の能力(タスク)は、プログラミングを一切行わずに「プロンプトエンジニアリング」だけで生み出されているのだ。

 プロンプトエンジニアリングとは、人間がAIに対して例題と回答例の組み合わせから成るサンプルを何個か与えると、AIが同じ種類の新しい問題に回答できるようになるという、巨大言語モデル特有の仕組みである。