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 新型コロナウイルスのワクチン接種が日本で本格化して1年半が経過した。2022年8月23日時点で接種率(1回以上)は82%に達し、接種実績は欧米諸国の多くを上回る。

 日本で市民への本格的な接種が始まったのは2021年4月。他の先進国よりも半年近く遅れたことへの批判が高まる中、政府はその後にピーク時で目標の1日100万回を超える1日170万回まで接種のペースを加速させた。

 この実績を支えた要因として、医療機関をはじめとする現場の尽力に加え、政府が早期に立ち上げた接種支援のITシステムが期待した一定の役割を果たした点があった。厚生労働省が自治体などとワクチン配送を調整・管理するために構築した「V-SYS(ワクチン接種円滑化システム)」と、内閣官房の下で全国の接種実績を迅速に把握するために開発した「VRS(ワクチン接種記録システム)」である。

広がる接種会場、週次でシステム改修を続ける

 ワクチン接種の会場は市区町村の会場や医療機関のほか職域接種などに広がり、最大で数千拠点の規模に達した。厚労省が運用したV-SYSはこれら多くの会場で2週間ごとにワクチンの配送量を調整・決定し、追跡する機能を担った。接種済みで3億回分を超えるワクチン配送の大部分は、V-SYS上で調整や配送指示を完結させている。

ワクチン配送に用いたワクチン接種円滑化システム(V-SYS)の地方自治体向け画面(東京都港区の協力で撮影)
ワクチン配送に用いたワクチン接種円滑化システム(V-SYS)の地方自治体向け画面(東京都港区の協力で撮影)
(写真:日経クロステック)
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接種会場で利用する接種記録を管理するワクチン接種記録システム(VRS)。東京都港区の接種会場
接種会場で利用する接種記録を管理するワクチン接種記録システム(VRS)。東京都港区の接種会場
(写真:日経クロステック)
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 接種が本格的に始まって以降、小分け配送への対応や冷却温度の管理など、ワクチン配送に要求される仕様は追加や変更が相次いだ。会場の管理についても、大規模接種会場や職域接種への対応が新たに求められた。厚労省と開発ベンダーはこうした変更のたびに、業務の見直しとシステム改修を続け、基本的にはどの場面でもV-SYSは対応し運用を続けた。

 「自治体が予約を取りやすいよう、配送時期を前倒ししたい」「配送実績をもっと把握しやすくしてくれ」。接種を加速させるため、内閣官房ワクチンチームは接種の拡大期に様々な配送業務の見直しに取り組み、実務を担当する厚労省に対応を求めた。厚労省と開発ベンダーはそのたびに業務を見直し、V-SYSのシステム改修を続けた。

 改修はピーク時に週2~3回のペースで行われ、2021年度の改修回数は100回に達したという。2022年4月に承認された米ノババックス(武田薬品工業が国内で製造)のワクチンや2022年10月にも日本で接種が始まる見通しのオミクロン型対応ワクチンなど、V-SYSは現在も状況変化に合わせてシステム改修を続けている。

 一方、個人の接種記録を管理するVRSの開発は、当時ワクチン担当相だった河野太郎氏の即断から始まった。「国として、ワクチン接種の(実績)数をリアルタイムで把握する必要がある」。河野ワクチン担当相は2021年1月18日の就任からすぐに厚労省や内閣官房IT総合戦略室(当時)などワクチンとデジタルに関わる関係者から一通りの説明を聞き、数日でVRSの開発方針を固めた。

 市民へのワクチン接種開始が早ければ2021年3月末にも迫っていた中、IT総合戦略室は河野ワクチン担当相の下につくられたワクチンチームらと仕様の議論を進めた。要件定義を経て開発ベンダーを選定したのは2021年2月17日。2021年4月12日の正式稼働まで「実質的な開発期間は6週間」(IT総合戦略室で開発を担当した現デジタル庁幹部)という異例の短期開発になった。トラブルを経験しながらも2021年4月の市民向け接種から本格稼働し、現在も同じシステムを運用し続けている。

 関係者によれば、当初V-SYSで接種数の実績を把握しようとした厚労省は、河野ワクチン担当相らの聞き取りに対し、国がV-SYSとは別にVRSを開発して接種実績を集計する構想には否定的だったという。

 だがその後の経緯をみれば、VRSはいまやワクチン接種に不可欠な存在になっている。VRSがなければ、大規模接種会場や職域接種へと市区町村の枠を超えて接種の機会を拡大させるのは極めて困難だった。年齢別などきめ細かな接種実績はVRSがなければ迅速に把握できず、ワクチン接種証明書アプリなど証明書を迅速に発行できる仕組みも困難に直面していた。

 V-SYSとVRSはカバーする業務を分担し、関係者が調整しながら厚労省とデジタル庁がそれぞれ運用を続けている。ワクチン接種に使うシステムがV-SYS、VRSと2つある点については、当初は自治体から不安の声も上がったが、運用を通じて理解が広がった。

2021年1月に政府が司令塔、システム連携は間に合わず

 しかし、V-SYSとVRSを極めて短期間で開発したことや、それに伴う両システムの連携不足が、接種の拡大期に混乱をもたらしたこともあった。成功とともに検証すべき蹉跌(さてつ)も経験した。