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 政府が2021年2月にスタートさせた新型コロナウイルスのワクチン接種事業は、菅義偉首相(当時)が5月に「1日100万回を目標とする」と表明した後、7月には約170万回と目標を大きく突破した。市区町村から医療機関、職域接種に参加した企業まで、それぞれが接種業務の効率を高める工夫をし、政府が提供した情報システムも効率化に貢献した。

 だが、2021年4月の接種拡大からしばらくは、接種事務の効率を左右する「接種券の読み取り」でつまずいた。背景には、厚労省が決めた接種券の仕様の想定が甘く、事務の効率化を妨げたうえに、内閣官房のもとで新たに開発したシステムがその影響を見極めるまでに時間を要したことがあった。接種券番号を含む単純な18ケタの数字列の読み取りで足をすくわれた格好だ。

 2021年12月の3回目接種からは、失敗を踏まえて厚労省とデジタル庁が連携し、仕様を統一したQRコードを接種券に印刷するなど、接種券を機械的に読み取りやすい改善を行っている。

 予防接種自体は自治体が主体となる事業だが、今回のコロナワクチン接種のように、自治体をまたいだ業務や情報の連携が発生することは十分にあり得る。第1回目接種で経験したトラブルからは、最初から想定を広げ、データの仕様を事前に定めるなどデジタルの観点で業務を効率化するためのノウハウを積み上げる重要性がくみ取れる。

接種券番号の読み取りエラーで「接種済みなのに未接種」

 政府は全国での接種実績数を迅速に集計できるよう、「VRS(ワクチン接種記録システム)」を2021年4月に投入した。接種会場の受付時に、市区町村が配布した接種券をタブレット端末で読み込むことで、手入力なくただちに本人を識別して接種記録に反映させる。全国統一のシステムで事務を簡便にすることが、接種実績をリアルタイムで把握するための鍵を握った。

 しかし2021年4月の本稼働からしばらくは「接種券にカメラの焦点が合いにくい」、「OCR(光学文字認識)機能が接種券番号の認識に時間がかかる」など一定数の不具合が生じる。接種に携わった医師らからは「使いにくい」などの評価も出始めた。

接種券を読み取りにくい問題に対し、ワクチン接種記録システム(VRS)を開発した内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室は、適切なタブレット端末の位置をビデオなどを使って広報。のちに端末を置く台を製作して接種会場に送付した
接種券を読み取りにくい問題に対し、ワクチン接種記録システム(VRS)を開発した内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室は、適切なタブレット端末の位置をビデオなどを使って広報。のちに端末を置く台を製作して接種会場に送付した
(出所:デジタル庁の広報ビデオをキャプチャー)
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 さらに接種券番号を正しく認識せず、接種記録がまったく違う個人のものとして登録されるエラーが続出していたことが後に判明する。接種券番号の「3」を「8」に誤読するなどのケースで、接種したのに自分の接種記録がなく未接種の扱いになる他、接種していない人が接種済みになるケースもあった。

 VRSの運用を内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室(当時)から引き継いだデジタル庁は、ワクチン接種証明アプリのリリースを控えた2021年12⽉17⽇の時点で、修正が必要な誤データが10万件、誤りがあるか確認が必要なデータが433万件あったと公表している。接種したワクチンの種類などをタブレットの操作で入力する際の操作ミスの他、接種券番号をOCRで読み誤ったケースも多かったという。

 両方を合わせたデータ誤りの割合は0.1%程度だが、自治体によっては1%近いケースがあったとの指摘もある。確認が必要なケースは4%に達し、誤データも含めてそれぞれの自治体が主に予診票を参照して確認、修正する手間をかけている。