全2817文字
PR

 人工知能(AI)を使うには大量の学習データが必要――。そんな常識を覆そうとしているのは、安川電機の子会社であるエイアイキューブ(東京・中央)だ。同社のAIソリューション「Alliom(アリオム)」は、「学習データがなければ自ら作ってしまう」という驚くべきアプローチでAIの普及に挑んでいる。

 一般に、人が何となく判断していることを人工知能(AI)で置き換えるには、人の判断結果をAIに学習させる必要がある。例えば、図1に示したポテトサラダの写真を見比べて、どちらがうまく盛り付けられているかと聞かれたら、多くの人は(a)を選ぶだろう。しかし、それを自動化しようとすると、合否の条件を明確にしなければならないので、とたんにハードルが上がる。そこで、条件を明確にしなくても自ら学ぶAIを使おうとなるのだが、そのためには学習データとなる「うまい盛り付け」や「へたな盛り付け」の画像が大量に必要になる。

図1 盛り付け方の異なるポテトサラダ
図1 盛り付け方の異なるポテトサラダ
(写真:エイアイキューブ)
[画像のクリックで拡大表示]

 ところが、学習データがなかなか手に入らないというケースが多い。その代表例は、製造業における不良品だ。製造業の現場からは「歩留まり(良品率)が高いから、学習データとなる不良品のデータ(画像など)がそもそもない」などという声がよく聞かれる。ポテトサラダの例でいえば、日常業務で「へたな盛り付け」はそんなにないだろうから、「へたな盛り付け」の画像を大量に確保するのは難しいだろう。つまり、ほとんどの企業では品質が高い故に品質検査にAIを使うのが大変という皮肉な状況なのである。

 エイアイキューブは、こうした状況を打破しようとしている。現在、同社が主に支援しているのは、ばら積みされた不定形物のピッキングや、形や大きさがまちまちな傷を見つける外観検査といった、判断基準が複雑な作業の自動化だ。これらの工程は、「AIを活用したくても、AIモデルの構築に必要なデータが十分に得られず(または取得に時間がかかり)、自動化が進んでいない」(同社代表取締役社長の久保田由美恵氏)。Alliomは、学習データ用にリアルなニセモノ画像(疑似画像)を自動で大量生成し、AIに学習させている。

 Alliomが支援するのは、ばら積みされた不定形物のピッキングや、形や大きさがまちまちな傷を見つける外観検査といった、判断基準が複雑な作業の自動化だ。これらの工程は、「AIを活用したくても、AIモデルの構築に必要なデータが十分に得られず(または取得に時間がかかり)、自動化が進んでいない」(エイアイキューブ代表取締役社長の久保田由美恵氏)。Alliomは、学習データ用にリアルなニセモノ画像(疑似画像)を自動で大量生成することで、判断が難しい作業の自動化を実現する。

不良品の疑似画像を大量生成

 検査工程での活用例を紹介しよう。

 検査工程は、工場の中でも自動化が遅れている工程の1つ。その原因は「大抵の現場では不良発生率の低さから、AIに学習させる様々なバリエーションの不良データを確保できない」(久保田氏)ためだ。エイアイキューブは「データがないなら作ってしまおう」(同氏)という発想の下、不良品の疑似画像を短時間に大量生成してこの課題を解決した。具体的にはAlliomのラインアップの1つである外観検査ソリューション「AlliomVision」を使って、次の手順で自動化を進める(図2)。

図2  AlliomVisionの概要
図2  AlliomVisionの概要
(出所:エイアイキューブの資料を基に日経クロステックが作成)
[画像のクリックで拡大表示]

 まず、良品の画像に「お絵かきする感覚」(久保田氏)で、傷などの不良を描く。不良は、ランダムに発生させたり、過去に発生した不良を参考に手書きで描いたりできる。次に、AIを活用して、描いた不良を限りなくリアルな画像に近づける。この疑似画像生成AIには、あらかじめ不良の特徴を学習させてある。学習には本物の不良品の画像が最低2枚程度あればよいという。

 不良品の疑似画像を生成したら、不良箇所の情報を付加(アノテーション)する。ただし、疑似画像では不良を自ら作り出しているので、不良箇所は初めから分かっている。実際の不良品画像を使うときのように不良箇所を探す作業が要らず、データセットの準備にかかる時間を短縮できる。

 最後に、アノテーションした大量の不良画像(データセット)を外観検査用のAIに学習させる。こうして構築したAIの判定を使って、不良を取り除くための装置を動かせば、検査工程を自動化できる。

 AlliomVisionでは、上記の不良を描くところから外観検査用AIの構築までをほぼ自動で実行する(図2の枠内)。データ数にもよるが、大抵の場合、AI構築まで8~12時間で完了するという。

 同様に疑似画像生成のプロセスを、不良ではなくニンジンやキュウリといったポテトサラダの具材に応用すれば、具材の散らばり方が異なるさまざまな疑似画像の大量生成が可能だ。冒頭のようなポテトサラダの判断においても、データを大量に学習させれば、「食品盛り付け具合の良しあしといった、人の感性に近い判断ができるAIを構築できる」(久保田氏)という。