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 2022年9月1日にデジタル庁は発足1年を迎えた。2022年8月10日に3人目のデジタル大臣となった河野太郎衆院議員の下、2年目のデジタル庁はどうなるのか。1年目に何ができて何ができなかったのかを検証し、そこから2年目を予測する。

「河野デジタル相の下で花を咲かせる時期に」

 「井戸をつくり私たちに水を与えてくれた人」。2代目デジタル大臣である牧島かれん衆院議員は2022年8月17日に開催されたデジタル庁政務三役退任式・就任式で、初代デジタル大臣の平井卓也衆院議員の功績をこう振り返った。

 「その(平井氏の)おかげで土を耕し種をまき、どの方向に進むかという支柱を立て、つるを上に進ませられるようになった。(今は)皆さんのおかげでつぼみを付けて花を咲かせる時期。(2022年8月からの)この1年で河野デジタル相の下、大輪の花を咲かせてほしい」。牧島氏はこう続け、河野体制下のデジタル庁に期待を寄せた。

 これに対し、河野デジタル相は2022年8月29日の報道各社のインタビューで次のように意気込みを語った。「育ててくれたものを花咲かせていきたい。『デジタル技術で便利になったよね』と皆さんに感じていただける1年間にする」――。

2022年8月17日に開催された就任式・退任式で記念撮影する牧島かれん前デジタル相(左)と河野太郎デジタル相
2022年8月17日に開催された就任式・退任式で記念撮影する牧島かれん前デジタル相(左)と河野太郎デジタル相
(写真:日経クロステック)
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 そもそもデジタル庁は政府のDX(デジタルトランスフォーメーション)の司令塔として、2021年9月1日に菅義偉首相(当時)をトップに発足した。平井氏を初代デジタル大臣としたが、岸田文雄内閣発足に伴い2021年10月4日に牧島氏が2代目に就任。さらに第2次岸田改造内閣の発足に伴い2022年8月10日に河野氏が3代目となった。

デジタル庁発足1年の主な出来事
年月主な出来事
2021年9月1日デジタル庁が発足し、平井卓也衆院議員が初代デジタル大臣に就任
2021年10月4日岸田文雄内閣が発足し、牧島かれん衆院議員が2代目デジタル大臣に就任
2021年10月26日各府省庁や地方自治体が共同利用する「ガバメントクラウド」の先行実証事業者を採択
2021年11月16日デジタル社会に合うよう法制度を一括で見直すための「デジタル臨時行政調査会」が初会合
2021年12月20日「新型コロナワクチン接種証明書アプリ」を公開
2021年12月24日政府のDXの羅針盤である「デジタル社会の実現に向けた重点計画」を改定して閣議決定
2022年4月26日初代デジタル監の石倉洋子氏が退任し浅沼尚氏が2代目デジタル監に就任
2022年5月9日「情報通信技術を利用する方法による国の歳入等の納付に関する法律(キャッシュレス法)」公布
2022年6月3日「デジタル臨時行政調査会」がアナログ規制一括見直しプランを策定
2022年6月7日「デジタル社会の実現に向けた重点計画」をさらに改定し閣議決定
2022年8月10日第2次岸田改造内閣が発足し河野太郎衆院議員が3代目デジタル大臣に就任
2022年8月31日自治体システム標準化の標準仕様書が出そろう

 2022年9月1日、事務方トップであるデジタル監を務める浅沼尚氏は報道関係者向けに報告会を開き、デジタル庁1年の取り組みを振り返った。特徴的な成果として、「新型コロナワクチン接種証明書アプリ」の提供、デジタル社会に合うように法規制を一括して見直すため2021年11月に政府が設置した「デジタル臨時行政調査会(デジタル臨調)」の推進、政府と自治体が共同利用するマルチクラウドである「ガバメントクラウド」の整備――などを挙げた。

 接種証明書アプリは累計842万件ダウンロードされ、1040万件の接種証明書が発行されたという。浅沼デジタル監は「アプリの評価は高評価で、利用者の利便性だけでなく、(接種証明書発行業務を担う)自治体職員の負荷軽減に大きく貢献したと認識している。もっとも有名な行政サービスの1つになったのではないか」とした。

浅沼尚デジタル監が示したデジタル庁設立1年でのサービスの成果
浅沼尚デジタル監が示したデジタル庁設立1年でのサービスの成果
(出所:デジタル庁)
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遅れる自治体システム標準化

 「できたこと」をアピールするデジタル庁だが、本来「やるべきこと」である、デジタル社会への転換を情報システムと法制度の両面から担う、政府DXの司令塔としての役割は果たせたのか。具体的には大きなところで、政府情報システムの刷新、全国に約1700ある地方自治体の情報システムを標準化・共通化する自治体システム標準化、ガバメントクラウドの整備などがある。

 この点、牧島前デジタル相が退任に当たり言及したように、この1年は種をまき水を与えて成長させる時期でもあって、まだ大きな花が咲いているわけではない。「デジタル敗戦」、つまり20年に及ぶデジタル化の遅れを一足飛びに挽回できるものではないが、自ら策定した計画通りにも進んでいないのだ。

 デジタル庁は政府のDXの羅針盤である「デジタル社会の実現に向けた重点計画(以下、重点計画)」を策定し、各府省庁のデジタル政策を取りまとめ、工程表を示してきた。最初の策定は同庁発足前の準備室時代の2021年6月。その後、同年12月、2022年6月と改定してきた。このうち、当初示したスケジュール通りに進んでいない施策が幾つかある。