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 「デジタル庁にとって霞が関のデジタル化は最重要課題。そこで成果を出さないと存在意義が問われる」――。デジタル庁の政策を評価する有識者会議で座長を務める国立情報学研究所の佐藤一郎教授はこう言い切る。

 そもそもデジタル庁は政府の「司令塔」として霞が関のDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めるために設置された。各府省庁が運用する合計約1100システムにも及ぶ政府情報システムをデジタル庁が統括・監理できるようにするため、各府省庁に対する勧告権などの強力な権限を付与されている。

 デジタル庁は霞が関DXの成果の1つとして、具体的な目標も掲げる。2020年度時点で5400億円かかっていた政府情報システムの保守運用費を2025年度までに3割削減するというものだ。「削った分を(霞が関DXの推進に)戦略的に投じる」とデジタル庁の浅岡孝充総括(特命)参事官は話す。

約1100の政府情報システムを3つに分類

 霞が関DXの推進やシステム保守運用費の削減を実現させるため、デジタル庁は各府省庁のシステムについて「一元的なプロジェクト監理」をしている。範囲は広く、各府省庁のシステム予算をいったんデジタル庁に集約して要求する「一括計上」から、予算承認後の各府省庁への配分、予算の執行(個別のシステム開発)までを、「政府情報システム全体のプロジェクト」としてデジタル庁が監理するというものである。

政府情報システムにおけるデジタル庁の役割
政府情報システムにおけるデジタル庁の役割
(出所:デジタル庁の資料「デジタル社会の実現に向けた重点計画」と取材を基に日経クロステック作成)
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 全体を監理する一方、政府情報システム全てを個別には見切れない。そこでデジタル庁は政府情報システムを3つに分類し、個別システムの整備・運用に対するデジタル庁の関与度合いに濃淡を付けた。具体的には、「デジタル庁が整備・運用するシステム(37システム)」「デジタル庁と各府省庁が共同で整備・運用するシステム(75システム)」「各府省庁が整備・運用するシステム(約1000システム)」――である。

デジタル庁による政府情報システムの類型
(出所:デジタル庁の資料を基に日経クロステック作成)
特徴2022年度予算システム数主なシステム
デジタル庁システムデジタル庁が整備・運用する990億円37政府共通プラットフォーム、マイナポータル、ガバメントソリューションサービス(GSS)、電子政府の総合窓口システム(e-Gov)
デジタル庁・各府省共同プロジェクトデジタル庁と各府省が共同で整備・運用する2280億円75登記情報システム(法務省)、国税総合管理システム(財務省)、社会保険オンラインシステム(厚生労働省)、ハローワークシステム(厚生労働省)、特許事務システム(特許庁)
各府省システム各府省が整備・運用する1331億円約1000戸籍情報連携システム(法務省)、共通基盤システム(警察庁)、農林水産省共通申請サービス(農林水産省)

 こうした一元的なプロジェクト監理について、客観的に分かる効果はまだ上がっていない。2022年8月31日にデジタル庁が公表した2023年度予算の概算要求のうち情報システム整備運用経費は約5556億円と、2022年度当初予算と比べて約955億円増えた。

 デジタル庁は2022年春から夏にかけて、予算要求前の「事前レビュー」を初めて実施した。各府省庁で新規開発したり大規模改修したりする166システムについて精査するなどしたが、「事前レビューによって具体的に概算要求額が減ったというわけではない」(デジタル庁担当者)。

各府省庁に派遣するデジタル人材に圧倒的不足感

 霞が関DXの推進は司令塔だけではうまくいかない。各府省庁のデジタル活用力を高める必要がある。そこでデジタル庁は各府省庁のシステム整備・運用の支援にも力を入れる。

 具体的には、デジタル分野に精通した民間出身者をデジタル庁で採用し、その人材を各府省庁に派遣して支援に当たらせている。この取り組みを通じて、各府省庁が政府全体方針に沿ってシステムを整備するよう調整したり、デジタル庁が整備する共通機能を使ってもらったりしている。

 現状は「デジタル庁が整備・運用するシステム(37システム)」の整備・運用を担うほか、「デジタル庁と各府省庁が共同で整備・運用するシステム(75システム)」の一部の支援にとどまる。デジタルが整備する、霞が関の共通ネットワーク「ガバメントソリューションサービス(GSS)」の各府省庁への導入支援などを手掛けている。

 ただ、各府省庁に派遣できるデジタル庁職員は十数人しかいない。「デジタル庁と各府省庁が共同で整備・運用するシステム(75システム)」には厚生労働省の「年金給付システム」「ハローワークシステム」など今後の整備に向けて丁寧な支援が必要な大規模システムが含まれるが、まだ十分に支援が行き届いていないのが実態だ。

政府情報システムを載せるマルチクラウドに遅れ

 コスト削減には政府情報システム全体で共通機能を積極的に使うことが欠かせない。こうした共通機能を整備・提供するのもデジタル庁の役割だ。

 デジタル庁はこの1年で、GSSのほか、複数の民間クラウドサービスで構成するマルチクラウドである「ガバメントクラウド」の整備も進めてきた。GSSについては既に人事院に導入し、農林水産省でも導入を進めている。

 一方で、ガバメントクラウドは進捗が遅れている。デジタル庁は当初、2022年度以降は政府情報システムでガバメントクラウドを原則的に利用するとしていたが、その原則利用は2023年度以降にずれ込んでいる。

 ガバメントクラウドは地方自治体も使う。自治体は2025年度末を期限としてそれぞれの基幹業務システムをガバメントクラウド上に構築する標準準拠システムに移行させる。

 これに向け、デジタル庁は2021年10月に、自治体システム標準化の先行事業とデジタル庁サイト向けとして、ガバメントクラウドで利用するクラウドサービスを2つ採択した。米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス)の「Amazon Web Services(AWS)」と米Google(グーグル)の「Google Cloud Platform(GCP)」である。

 2022年9月12日には、新たにガバメントクラウドで利用するクラウドサービスの調達を開始したが、基本的にその用途はデジタル庁が進める検証や調査研究向けにとどまる。各府省庁の情報システムの移行・整備を想定したクラウドサービスの調達は「次回以降になる」(デジタル庁担当者)とする。

 ガバメントクラウドの進捗に遅れが生じるなか、デジタル庁は2022年春に各府省庁に対してガバメントクラウドを使うかどうかという利用意向アンケートを実施した。これに対し各府省庁からは「ガバメントクラウドの情報がないので回答のしようがない」といった不満の声が漏れた。

 「ガバメントクラウドの情報を各府省庁や自治体と共有できているかというと、反省しないといけないところがある」。デジタル庁の浅岡総括(特命)参事官は認める。「今使っているシステムをそのままガバメントクラウドに移行してもコスト削減などの効果が出るわけではない。BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング、業務プロセス改革)をしたうえでガバメントクラウドを使う必要があり、各府省庁と丁寧にコミュニケーションを取って進める。今後、各府省庁や自治体などにガバメントクラウドの説明をする機会を設けたい」と続ける。