「今手を打たなければ手遅れになる」。介護施設を運営する善光会の宮本隆史理事は、介護現場の人手不足について危機感を示す。
厚生労働省は、2040年度には約280万人の介護職員を確保する必要があると推計している。2019年度の介護職員は約211万人であり、約69万人増やさなければならない。介護職員の離職防止や新規採用、高齢者の自立支援が急務だが、いずれも足元の人手不足を補うには限界がある。
解決策の1つとして、介護ロボットが期待されている。厚生労働省と経済産業省はロボット技術の介護利用における重点分野として、「移乗介助」「移動支援」「排せつ支援」「見守り・コミュニケーション」「入浴支援」「介護業務支援」の6分野を定め、開発と導入を後押ししている。ロボットの存在を前提に、介護職員がスムーズに仕事をしたり被介護者がストレスなく過ごせたりするシステムや環境を構築する動きが進んでいる。
宮本理事によると、6分野のうち介護現場での活用が最も進んでいるのは見守り・コミュニケーションロボットだという。見守り・コミュニケーションロボットは、センサーやカメラを被介護者の居室に取り付け、容体の異常があれば介護者に知らせるシステムだ。「被介護者の身体特性に関わらず、施設のインフラとして導入することができる」(宮本理事)ことが利点だ。
移乗介助ロボットは、見守り・コミュニケーションロボットに比べ導入が進みにくい。移乗介助ロボットとは、被介護者がベッドから車椅子に移る動作をサポートするロボットだ。被介護者の身体特性により利用できるロボットが限られる上に、ロボットを使うことで人だけで移乗させるより時間がかかってしまうといったハードルもある。
マッスルは移乗介助ロボットの開発に取り組む企業だ。同社が開発した「SASUKE」は、被介護者を「お姫様抱っこ」のように移乗させる。介護者がベッドに寝た被介護者の下にシートを敷き、シートの両端にアームを差し込む。さらにレバーを操作すると、SASUKEが被介護者をシートごと起き上がる姿勢をとらせて抱きかかえるように車椅子に移乗させる。
アームのみを使い被介護者の体を点で支えるのではなく、シートによる面で被介護者を支えることで、脱臼や骨折のリスクがある被介護者にも使用できる。介護者が2人がかりでなければ移乗できなかった被介護者を、1人で移乗させられる。