「ガストやしゃぶ葉などロボットを導入済みの業態で新しく作る店舗や改装する店舗は、全てロボットが通ることを前提としたレイアウトで設計している」。ファミリーレストラン大手、すかいらーくレストランツの花元浩昭営業政策グループロボット導入責任者はこう語る。深刻さを増す人手不足に新型コロナ禍による消費者の生活様式の変化と、従来のビジネスモデルの見直しを迫られるファミリーレストラン業界。すかいらーくグループはロボット前提の店づくりをすることで最大限にロボットの性能を生かし、よりよいサービスの提供を目指す。
ロボットが通る前提のレイアウトとは何か。段差をなくしたり通路を広めにしたりして、ロボットが従業員や客の邪魔をせずスムーズに動けるよう間取りを設計する。床材の継ぎ目に金属部品などを使わず、「使用する素材を変更し、ロボットが通行する際に振動が起きないようにするなど随時工夫をしている」(花元氏)。
床材の継ぎ目に金属部品などを使用していると、通過する際に細かい振動が生じる。ロボットが通過することは可能だが、特に汁物などはこぼれるおそれがある。ロボット前提レイアウトはこうした細かなトラブルにも目配りした。
通路の幅も従業員とロボットがすれ違えるくらいの広さにする。ファミリーレストラン名物のドリンクバー付近では利用客とロボットがぶつからないよう余裕をもった広さにあらかじめ設計しておく。ファミリーレストランではドリンクバーなどの設備のため客が店内を歩くことが多く、他の業態の飲食店よりもロボットと人間がすれ違いやすいためだ。
すかいらーくグループが導入したロボットは、配膳用途の「ベラボット」だ。ネコのようなかわいらしい見た目は、子供から高齢者まで幅広い年齢層の客に人気だという。同社グループは現在、1800店舗で2500台のベラボットを導入している。
ロボットを動かすITシステムに店舗のレイアウト情報を読み込ませ、ロボットの通行パターンを設定している。店舗ごとにレイアウトが異なるため、各店舗の導入担当者がその店舗に合った行動パターンを設定する。ドリンクバーの前ではほかの通路とは違い、真ん中よりもドリンクバーと反対側に寄って走行するなどロボットの走行方法に工夫を凝らした。
ロボット任せにあらず、心に余裕できめ細かい接客へ
すかいらーくグループがベラボットの活用を進める目的は、従業員の負担を減らしてよりきめ細かいサービスを可能にし、顧客満足度の向上につなげることだ。「今と同じ従業員数で、より多くの時間を接客に割けるようになった。ベラボットの助けを得て従業員に余裕ができ、トイレやドリンクバーの清掃の頻度が上がることで店内の清潔感が上がった」(花元氏)。
特にランチタイムなどのピーク時には従業員の配膳や下膳の手間が減り、より良いタイミングで下膳できるなど、よりきめ細かく客に気配りできるようになった。ロボット1台の平均走行距離は1日当たり5キロメートル以上。店舗の従業員はそれだけの距離を歩き回って接客しているということだ。
ロボット前提ではあるものの、全てをロボット任せにしていないのがミソだ。状況に合わせ、ロボットが客席へ直接配膳することもあれば、近くにいる従業員がベラボットから料理を取って客に提供することもある。客にアンケートを取った結果、80%以上はロボットに好意的だが一部肯定的ではない客もいた。「人が接客してほしい。この従業員と話すためにこのお店に来ている」という常連の利用者もいるという。
花元氏は「今あるベラボットの性能を人が生かして、より良いサービスができるかを考えることが大事」と語る。ロボットと人間が互いにスムーズに働けるよう、環境や業務手順を定めたら、「いかにうまく対応するかは、我々人間側の役目だ」(同)。
ファミマは飲料補充業務をロボで効率化
ファミリーマートはTelexistence(テレイグレジスタンス)が開発したロボット「TX SCARA」を2022年8月から順次導入している。用途は店舗のバックヤードにおける飲料の補充だ。アームを使ってバックヤードの飲料保管用冷蔵庫からボトルや缶を1本ずつ取り出し、店舗側の飲料陳列棚に置いていく。AI(人工知能)を搭載し、自動で動く。ロボットが飲料を倒したり棚から落としてしまったりした緊急時には、テレイグジスタンスの担当者が遠隔操作に切り替え、ボトルを起こしたり拾い上げたりする。
ファミリーマートはこの飲料補充ロボットを2024年度までに300店舗に導入する予定で、まずは今年度中に関東地域の直営店約30店舗に導入する見通しだ。ファミリーマートの狩野智宏執行役員は導入開始にあたって「店舗ごとに少しずつ環境が変わる中でロボットを導入して、想定した働きをしっかりできるか、人と一緒にはたらくことでどのくらい効率化できるか検証したい」と意気込む。