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 人工知能(AI)というと機械学習や深層学習が注目されがちだが、実はそれはAIの半分にすぎない。あとの半分、いわば「アナザーAI」は企業の生産計画や物流などで重要な役割を果たす「最適化AI」だ。最適化AIを実現するための技術が、「焼きなまし法」や「ビームサーチ」などの「ヒューリスティックアルゴリズム(メタヒューリスティクス)」である。この連載では、競技プログラミングサービスを提供しているAtCoderの高橋直大社長が、アルゴリズムに対する深い知識を生かし、最適化AIを活用している企業を訪ねて取り組みを探っていく。

 今回は、飲食や美容などさまざまな領域で消費者向けや企業向けのサービスを提供しているリクルートを訪問した。データ関連技術を統括する同社プロダクト統括本部 プロダクト開発統括室 データ推進室 データテクノロジーユニットの阿部直之ユニット長に、最適化AIを使ったサービスの取り組みを聞いた。また、同推進室 データプロダクトユニット データプロダクトマネジメント2部 データプロダクトエンジニアリング4グループの今西健介氏にも話を聞いた。同氏は、オンライン広告のリアルタイムオークションへの入札を自動化する広告主向けシステムであるDSP(Demand-Side Platform)の最適化を手がけている(聞き手は高橋 直大=AtCoder)。

左から、リクルート データ推進室 データテクノロジーユニットの阿部直之ユニット長、AtCoderの高橋直大社長、DSPの最適化を手がけるリクルートの今西健介氏
左から、リクルート データ推進室 データテクノロジーユニットの阿部直之ユニット長、AtCoderの高橋直大社長、DSPの最適化を手がけるリクルートの今西健介氏
(撮影:日経クロステック)
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最適化AIを利用している事例にはどのようなものがあるのでしょうか。

阿部氏:リクルートはマッチングビジネスを手がけていることもあり、多くの最適化の事例があります。

 例えば、メール配信の最適化があります。メールによるユーザーへのレコメンドで反応が最大になるよう最適化したり、メールでユーザーにどういったクーポンを発行するかを最適化したりしています。

 またリクルートはもともと情報誌の会社なので、情報誌の配送問題も手がけています。コンビニエンスストアや駅に情報誌のラックがあるので、それらをどう巡回するのが一番効率がいいかを配送問題として解いています。

 最近は、店舗を業務支援するSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)の事例が増えています。例えば、飲食店でキッチンの調理順をレコメンドするサービスを開発しました。いろんな注文が来たときに、来店客のユーザー体験が一番良くなる順番は何かをレコメンドして、店側がそれを参考に調理するのです。

 テレビCMをどこの枠に出すと広告効果が最大になるのかも最適化問題の1つとして取り組んでいます。これまでCM枠の選択はメディア担当者の感覚に頼っていましたが、最適化問題に落とし込んで解いたところ、一定の成果が出ました。