人工知能(AI)というと機械学習や深層学習が注目されがちだが、実はそれはAIの半分にすぎない。あとの半分、いわば「アナザーAI」は企業の生産計画や物流などで重要な役割を果たす「最適化AI」だ。最適化AIを実現するための技術が、「焼きなまし法」や「ビームサーチ」などの「ヒューリスティックアルゴリズム(メタヒューリスティクス)」である。この連載では、競技プログラミングサービスを提供しているAtCoderの高橋直大社長が、アルゴリズムに対する深い知識を生かし、最適化AIを活用している企業を訪ねて取り組みを探っていく。
今回は趣向を変え、最適化AI(数理最適化)による産学連携を進める大阪大学大学院数理最適化寄付講座の梅谷俊治教授に、数理最適化の意義やその活用などについて聞いた。(聞き手は高橋 直大=AtCoder)。
まず、数理最適化が重要になってきている理由を教えてください。
梅谷氏:数理最適化は実は歴史が古く、ジョージ・ダンツィーグ氏が発明した「線形計画法」が第2次世界大戦の直後くらいに広まったのが契機です。1970年代から80年代にかけては、製造業で数理最適化を使って問題を解決しようという試みがありました。しかし、当時はコンピューターの性能が低く、組み合わせ最適化*問題自体も難しいので、「使えない」という烙印(らくいん)を押されてしまったのです。最近になっていろんな最適化問題がうまく解けるようになって、実際に使われるようになってきました。
ビッグデータが注目されるようになったころは、データを収集するインフラを整備して現状把握とデータの可視化に努めるようになりました。それが一段落すると、データがあるだけではだめで予測分析をしなければという話になり、機械学習やデータサイエンスが注目されるようになりました。しかし、それだけでは不十分だとわかってきたのが現在だと思います。
例えば、レコメンデーションで顧客に商品やサービスを推薦する場合、機械学習を使うとマッチングのスコアを計算できます。ところが単純にスコアが高い順に割り当ててもいいレコメンデーションにはなりません。なぜなら、高いスコアは人気商品と感度の高いユーザーの組み合わせを意味するので、何もしなくても購入する可能性が高いからです。つまり広告としては0点なんです。
実際のレコメンデーションでは、もともとは感度の低いユーザーに刺さるようなニッチな商品をうまく推薦しなければなりません。そこで、どのユーザーに対しても同じくらいの数の商品を推薦するとか、どの商品についてもある程度の数を推薦するといった制約条件を設定し、それを満たすように割り当てていく必要があります。これは要するに制約条件のついた最適化問題を解くということです。
機械学習で予測ができれば終わりという話ではなく、その結果を基に意思決定や計画策定を行う際には、さまざまな制約条件のもとで最適化問題を解かなければなりません。個人的には「ようやく数理最適化のステージに来た」と感じています。