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 人工知能(AI)というと機械学習や深層学習が注目されがちだが、実はそれはAIの半分にすぎない。あとの半分、いわば「アナザーAI」は企業の生産計画や物流などで重要な役割を果たす「最適化AI」だ。最適化AIを実現するための技術が、「焼きなまし法」や「ビームサーチ」などの「ヒューリスティックアルゴリズム(メタヒューリスティクス)」である。この連載では、競技プログラミングサービスを提供しているAtCoderの高橋直大社長が、アルゴリズムに対する深い知識を生かし、最適化AIを活用している企業を訪ねて取り組みを探っていく。

 今回は、三菱商事グループでデジタルによるビジネス変革に取り組むMC Digital(MCデジタル)を訪問した。社員の半数以上がエンジニアで、AtCoderをきっかけに入社した社員も多い。ヒューリスティックアルゴリズムを利用し、グループ会社を中心に実施している業務最適化の取り組みを、同社の久保長礼最高技術責任者(CTO)と佐藤遼太郎データサイエンティストに聞いた(聞き手は高橋 直大=AtCoder)。

左からMCデジタルの佐藤遼太郎データサイエンティスト、久保長礼CTO、AtCoderの高橋直大社長
左からMCデジタルの佐藤遼太郎データサイエンティスト、久保長礼CTO、AtCoderの高橋直大社長
(撮影:日経クロステック)
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まず、何をしている会社なのか教えてください。

久保長氏:MCデジタルは三菱商事の子会社で、2019年9月に設立されました。技術を内製化することで、三菱商事グループにあるドメインナレッジをデジタル化し、新しい価値を生み出すことを目指しています。得意なのは、ヒューリスティックアルゴリズムや機械学習といった技術を使って企業の業務を最適化することです。

 現在の顧客は、メーカーや卸企業、運送会社、電力関連の会社がメインになっています。三菱商事グループの会社が中心ですが、それ以外の会社とも仕事をしています。グループ内では、2021年に三菱商事とNTTが共同で設立したインダストリー・ワンと共に食品卸向けの在庫最適化ソリューションを開発しており、三菱食品が運営するローソン向けの物流センターで稼働しています。

 配送の最適化にも取り組んでおり、グループ内の企業と取り組んでいるものもあればグループ外の企業と取り組んでいるものもあります。トラックの台数削減や労働者の残業時間削減に貢献するような配送最適化のアルゴリズムをつくったりしています。