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(撮影:日経クロステック)
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 人工知能(AI)というと機械学習や深層学習が注目されがちだが、実はそれはAIの半分にすぎない。あとの半分、いわば「アナザーAI」は企業の生産計画や物流などで重要な役割を果たす「最適化AI」だ。最適化AIを実現するための技術が、「焼きなまし法」や「ビームサーチ」などの「ヒューリスティックアルゴリズム(メタヒューリスティクス)」である。この連載では、競技プログラミングサービスを提供しているAtCoderの高橋直大社長が、アルゴリズムに対する深い知識を生かし、最適化AIを活用している企業を訪ねて取り組みを探っていく。

 今回は、ディー・エヌ・エー(DeNA)からスピンオフしたAIベンチャーのALGO ARTIS(アルゴ・アーティス)を訪問した。電力、物流、製造といった重厚長大系企業のスケジューリング問題を最適化AIで解くことを得意としている。同社の取り組みを、永田健太郎社長、門脇大輔リードアルゴリズムエンジニア、松尾充アルゴリズムエンジニアに聞いた(聞き手は高橋 直大=AtCoder)。

左からALGO ARTISの永田健太郎社長、松尾充アルゴリズムエンジニア、門脇大輔リードアルゴリズムエンジニア、AtCoderの高橋直大社長
左からALGO ARTISの永田健太郎社長、松尾充アルゴリズムエンジニア、門脇大輔リードアルゴリズムエンジニア、AtCoderの高橋直大社長
(撮影:日経クロステック)
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まず、ALGO ARTISができた経緯を教えてください。

永田氏:私は、もともとDeNAでAIを使った新規事業をつくる部門にいました。そこで100社以上に会ってコラボレーションできることはないかと検討した中で、関西電力の燃料運用最適化の事例が見つかりました。それを最初の案件として、DeNAの中でプロジェクトを立ち上げたのが出発点です。

 このサービスには高いポテンシャルがあると感じました。しかしDeNAはエンターテインメント事業寄りの会社であり、こうした新規事業に資金と人材を集中するのは難しい。そこで、DeNAにステークホルダーになってもらってスピンオフすれば、DeNAにとっても事業にとってもよいことだと考えました。そうして2021年7月にALGO ARTISを設立しました。

具体的にどんなサービスを提供しているのですか。

永田氏:3社の事例があります。関西電力の石炭火力発電所の燃料運用最適化、東北電力の配船計画最適化、日本触媒の高吸水性樹脂の生産計画最適化です。最初のコンタクトはいずれもスピンオフ前であり、現在は開発したシステムを運用中です。

 これらに共通しているのは、ヒューリスティックアルゴリズムを軸としたソリューション提供です。特にスケジュールの最適化にフォーカスしており、複雑な問題の解決に強みを持っています。現在は、検討中のものを含めると20件近くの案件をいただいています。「改善のために入れたシステムがあまり使えない」と駆け込み寺的に相談が来ることも結構あります。