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(撮影:日経クロステック)
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 人工知能(AI)というと機械学習や深層学習が注目されがちだが、実はそれはAIの半分にすぎない。あとの半分、いわば「アナザーAI」は企業の生産計画や物流などで重要な役割を果たす「最適化AI」だ。最適化AIを実現するための技術が、「焼きなまし法」や「ビームサーチ」などの「ヒューリスティックアルゴリズム(メタヒューリスティクス)」である。この連載では、競技プログラミングサービスを提供しているAtCoderの高橋直大社長が、アルゴリズムに対する深い知識を生かし、最適化AIを活用している企業を訪ねて取り組みを探っていく。

 今回は、グループでITコンサルティングからシステム開発、運用保守までを手がけるフューチャーを訪問した。同社のStrategic AI Group(SAIG)はAIを専門に手がける部隊だ。SAIGの加藤善大グループリーダーとSAIGでヒューリスティックアルゴリズムによる最適化AIを手がける塚本祥太シニアアーキテクトに取り組みを聞いた(聞き手は高橋 直大=AtCoder)。

左からフューチャーのSAIGの加藤善大グループリーダー、塚本祥太シニアアーキテクト、AtCoderの高橋直大社長
左からフューチャーのSAIGの加藤善大グループリーダー、塚本祥太シニアアーキテクト、AtCoderの高橋直大社長
(撮影:日経クロステック)
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まず、SAIGができた経緯を教えてください。

塚本氏:SAIGは2018年に創設されました。昨今のAIブームの盛り上がりと顧客の要望が増えてきたことが設立の理由です。機械学習や深層学習だけでなく、データ分析やデータサイエンス、私が手がけているヒューリスティックアルゴリズムなどいろいろな技術を組み合わせてAIソリューションを提供しています。

 フューチャーグループの案件にAIを使う必要があるときにプロジェクトに参画することもありますし、SAIGが主導してAIに関する顧客のPoC(概念実証)やシステム構築を手がけることもあります。価値の大きいAIを組み込んだシステムを構築する場合は、フューチャーグループの他の開発部隊と連携することが多いです。フューチャーには顧客の要望を聞いて各グループに案件を割り当てるビジネスディベロップメントグループという組織があり、そことも緊密に連携しています。

 現在のSAIGのメンバーは30人くらいです。広い意味でのアルゴリズムは全員が扱えます。高度なアルゴリズムの実力を持つ人材はそのうち10人くらいです。

それは全員がエンジニアという意味でしょうか。

加藤氏:フューチャーグループにはエンジニアという枠はなく、全員がITコンサルタントだというDNAがあります。入社した人は、全員がプログラミングによるシステム開発を行います。そうした人たちが、プロジェクトの進め方やチーム開発を学びながら、徐々に顧客に対する提言ができるようになっていきます。SAIGも、AIエンジニアがビジネスを語れるところまで成長することを目指しています。

どのような業種や業態の顧客を得意としているのですか。

塚本氏:私たちは顧客の業種や業態はまったく制限していません。必要であれば、センサーネットワークやデータレイク(巨大なデータプール)をつくってデータを取るところから始めます。

 SAIGは、AIの専門性が必要な案件でシステム開発の前の段階からアドバイザーとして参画することもあります。最近は顧客企業の中にもAIエンジニアがいることが増えましたが、AIのモデルはつくれても、それをシステムに組み込む経験値が少ないことがあります。そうした人たちをサポートしてシステム開発までつなげていくといったことも柔軟に行っています。