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 発注者であるユーザー企業や官公庁を頂点にITベンダーが何層にもわたって連なる多重下請けと並び、IT業界の古くて新しい問題が「ベンダーロックイン」だ。ユーザー企業や官公庁はシステム開発や運用・保守を丸投げし、それらを引き受けて長期にわたって収益を得るITベンダーのもたれ合いの構図は今も根強く残る。悪弊を放置し続ければ、DX(デジタルトランスフォーメーション)などおぼつかない。

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 「これまでIT人材を育ててこず、ITベンダーの言いなりだった。言い値で取引していた」。ある地方銀行のシステム担当役員は、経営体力に乏しい地銀のシステム開発や運用・保守の現状をこう打ち明ける。

 同氏が勘定系システム移行プロジェクトに関わった際、IT部門の弱体化の深刻さに驚いたという。元帳移行のためにメインフレームを期間限定で用意する必要があったが、ITベンダー側の提案が地銀の足元を見た内容だったからだ。

 期間限定だったにもかかわらず、ITベンダーは当初、買い取りで、しかもレンタルのケースを大きく上回る価格を提示してきた。そこから価格交渉に入ったが、IT部門側に機器調達に関する十分な知見がなかったため、割高な価格でメインフレームを導入することになりかねなかった。

 結果的に、同氏などが関わり妥当な水準に落ち着いたが、「そのまま交渉を進めていたら、ITベンダーの言いなりで、割高な価格でメインフレームを利用していることに気付きもしなかっただろう」(同氏)。

ユーザー企業とITベンダーがもたれ合う構図

 なぜIT部門の弱体化が進行したのか。理由はユーザー企業とITベンダーがもたれ合う構図が長年続き、ベンダーロックインの状況を生み出したからだ。ユーザー企業は目先のコスト削減を狙ってシステム開発や運用・保守をITベンダーに丸投げする一方、ITベンダーは他ベンダーに容易に切り替えられない独自仕様のシステムを構築し、保守などで長期にわたって収益を得てきた。

ベンダーロックインの構図とそれが引き起こす弊害
ベンダーロックインの構図とそれが引き起こす弊害
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 現在のようなユーザー企業とITベンダーのもたれ合いの傾向が強まった一因は、2000年前後のアウトソーシングブームにある。日本IBMなどはビジネスの軸足をハードウエアからサービス事業に移す過程で、ユーザー企業のシステム開発や運用・保守を全面的に引き受ける大型のアウトソーシング契約を次々と締結していった。

 米IBMでサービス担当の上級副社長を務め、後にCEO(最高経営責任者)に就くサミュエル・パルミサーノ氏は「アウトソーシングは米国流のビジネススタイルで、日本企業にはそぐわないとの指摘があるようだ。実はまったく逆で、日本企業こそアウトソーシングに最も向いている」と語っていた。IBMが推進したアウトソーシング戦略のうたい文句に、コスト削減が至上命題だった大手企業が飛びついた。