電気を使い切った蓄電池を利用者が充電するのでなく、業者が充電した電池に交換する――このような電池をシェアリングする、または交換するサービスが、モバイル端末、2輪、そして電気自動車(EV)に急速に広がり始めた。今後、順調に普及していけば、電池に求められる要件が大きく変わる。そしてその電池を使うスマートフォン、電動アシスト付き自転車、電動2輪、EV、ポータブル電源、さらには電力系統の在り方や電気の使い方までもが大きく変わっていくことになる。
開始7年で50万人
電池交換サービスが世界に先駆けて本格的に普及しつつあるのが台湾だ。電動スクーターのメーカーである台湾Gogoroが、2015年に始めた同サービスではこの2022年8月に利用者が50万契約に達した(図1)。
台湾は人口約2360万人に対して、2輪車の台数が約1200万台という2輪車大国。そこでの50万契約はまだわずかではある。ただ、新車販売分では、2輪車全体に占める電動2輪車の比率は、2019年の18.7%から2021年の約25%へと急速に伸びている。そして、その電動2輪車の92%超を占めるのがGogoroのサービス対応車である注1)。
2022年9月末時点のGogoro Networkの交換ステーション「GoStation」は台湾全体で2423カ所(図2)。1カ所で電池のスロットを120個以上備える「スーパーGoStation」も増えており、スロット数の総計は約10万5000個に達している。
どこでもデリバリーサービスも
Gogoroに対抗するサービスも出てきた。台湾の2輪車最大手であるKYMCO(光陽工業)が、Gogoro対抗の電池交換サービス「ionex(アイオネックス)」を2021年8月に立ち上げた。
交換ステーションは2022年8月末で1533か所。2022年中に2000カ所に増やす計画だ。しかも電動スクーターの電池残量が減ってきた時点で利用者がリクエストすれば、その場所に充電済みの電池をデリバリーして交換までしてくれる。利用者はデリバリーを待ったり、交換に立ち会ったりする必要はない。さらに、このデリバリーサービスの“サブスク”に加入すれば、電池切れが近づくと夜のうちに自動的に交換してもらえる。ただし、現時点でionexのシェアは数%にとどまっているもよう。圧倒的にGogoroが強いままである。
いずれにせよ、台湾における2輪車市場の競争の主軸は電動2輪車とその電池交換サービスに移りつつある。従来付きまとっていた電動2輪車の電池切れの不安、そして充電の手間や時間の課題がほぼ解消したことで、今後の台湾での2輪車の電動化率は高まる一方になりそうだ注2)。
Gogoroは世界進出も破竹の勢い
Gogoroは世界へも積極的に出ていく姿勢だ。2021年6月には台湾・鴻海精密工業と電池パックや電動スクーターの大量生産で提携。同年9月にはSPAC(特別買収目的会社)の形で米国の株式市場NASDAQに上場すると発表した。同年10月には中国本土に進出して、「換換(Huan Huan)」ブランドで電池交換サービスを始めた。電動スクーターは、スズキが技術供与した中国最大手の2輪車メーカー中国・大長江集団(DCJ)と世界最大手の電動モビリティーメーカーの同Yadea Technology Group(雅迪)が製造する。向かうところ敵なしという布陣だ。
さらにGogoroは、インド、インドネシア、シンガポール、イスラエルにも電池交換サービスを広げつつある。