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 電気を使い切った蓄電池を利用者が充電するのでなく、業者が充電した電池に交換する――このような電池をシェアリングする、または交換するサービスが、モバイル端末、2輪、そして電気自動車(EV)に急速に広がり始めた。今後、順調に普及していけば、電池に求められる要件が大きく変わる。そしてその電池を使うスマートフォン、電動アシスト付き自転車、電動2輪、EV、ポータブル電源、さらには電力系統の在り方や電気の使い方までもが大きく変わっていくことになる。

開始7年で50万人

 電池交換サービスが世界に先駆けて本格的に普及しつつあるのが台湾だ。電動スクーターのメーカーである台湾Gogoroが、2015年に始めた同サービスではこの2022年8月に利用者が50万契約に達した(図1)。

(a)サービス開始後7年目の2022年8月24日(現地時間)に50万契約達成
(a)サービス開始後7年目の2022年8月24日(現地時間)に50万契約達成
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(b)2018年以降、およそ10万契約/年のペースで増加
(b)2018年以降、およそ10万契約/年のペースで増加
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図1 台湾で2輪向け電池交換サービスが離陸
台湾Gogoroは2022年8月24日(現地時間)に同社の電池交換サービスの利用者(契約者)数が50万人に達成したと発表した(a)。同サービスは当初の2年間は伸び悩んでいたが、2018~2019年に利用者が急増。その後、新型コロナ禍でやや増加の勢いが鈍っていた。直近は回復傾向にあるようだ(出所:(a)はGogoro、(b)はGogoroの発表データを基に日経クロステックが作成)
 

 台湾は人口約2360万人に対して、2輪車の台数が約1200万台という2輪車大国。そこでの50万契約はまだわずかではある。ただ、新車販売分では、2輪車全体に占める電動2輪車の比率は、2019年の18.7%から2021年の約25%へと急速に伸びている。そして、その電動2輪車の92%超を占めるのがGogoroのサービス対応車である注1)

注1)Gogoroの電池交換サービス「Gogoro Network」に対応した車両は、Gogoro製電動スクーターのほか、「Powered By Gogoro Network(PBGN)」と呼ぶアライアンスに加盟したメーカーの車両も含む。ヤマハ発動機は2019年8月にPBGNに加盟し、対応する電動スクーターを発表。三菱自動車などが出資する台湾China Motor(中華汽車)も電動スクーターに関して2020年11月に加盟した。

 2022年9月末時点のGogoro Networkの交換ステーション「GoStation」は台湾全体で2423カ所(図2)。1カ所で電池のスロットを120個以上備える「スーパーGoStation」も増えており、スロット数の総計は約10万5000個に達している。

(a)電池の交換は数秒~数十秒で済む
(a)電池の交換は数秒~数十秒で済む
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(b)2輪1台で2個の電池を利用
(b)2輪1台で2個の電池を利用
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(c)台北市ではどこでも3分走れば交換ステーションにたどり着く
(c)台北市ではどこでも3分走れば交換ステーションにたどり着く
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(d)「スーパーGoStation」が続々
(d)「スーパーGoStation」が続々
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図2 電動バイクの9割超、2輪全体の1/4がGogoroのサービス対応車
普及という点では破竹の勢いのGogoroの電池交換サービスの状況。電池交換は数秒から数十秒と短時間で済む。これまでに累計で3億回超の交換があったとする(a)。電池は座席の下に2個入れて利用する(b)。2022年9月末時点では、台湾全体で交換ステーション「GoStation」は2423カ所。電池のスロット総数は約10万5000個。台北市では「3分走れば交換ステーションにたどり着く」(Gogoro)ほど、設置密度が高い(c)。1カ所で120スロット以上の「スーパーGoStation」も増えてきた(d)。台湾で発売されている電動バイクの9割超はこのGogoroのサービスに対応した車両である(画像:Gogoro)

どこでもデリバリーサービスも

 Gogoroに対抗するサービスも出てきた。台湾の2輪車最大手であるKYMCO(光陽工業)が、Gogoro対抗の電池交換サービス「ionex(アイオネックス)」を2021年8月に立ち上げた。

 交換ステーションは2022年8月末で1533か所。2022年中に2000カ所に増やす計画だ。しかも電動スクーターの電池残量が減ってきた時点で利用者がリクエストすれば、その場所に充電済みの電池をデリバリーして交換までしてくれる。利用者はデリバリーを待ったり、交換に立ち会ったりする必要はない。さらに、このデリバリーサービスの“サブスク”に加入すれば、電池切れが近づくと夜のうちに自動的に交換してもらえる。ただし、現時点でionexのシェアは数%にとどまっているもよう。圧倒的にGogoroが強いままである。

 いずれにせよ、台湾における2輪車市場の競争の主軸は電動2輪車とその電池交換サービスに移りつつある。従来付きまとっていた電動2輪車の電池切れの不安、そして充電の手間や時間の課題がほぼ解消したことで、今後の台湾での2輪車の電動化率は高まる一方になりそうだ注2)

注2)台湾当局は、2輪車の全面電動化を2030年までに進める方針を打ち出している。

Gogoroは世界進出も破竹の勢い

 Gogoroは世界へも積極的に出ていく姿勢だ。2021年6月には台湾・鴻海精密工業と電池パックや電動スクーターの大量生産で提携。同年9月にはSPAC(特別買収目的会社)の形で米国の株式市場NASDAQに上場すると発表した。同年10月には中国本土に進出して、「換換(Huan Huan)」ブランドで電池交換サービスを始めた。電動スクーターは、スズキが技術供与した中国最大手の2輪車メーカー中国・大長江集団(DCJ)と世界最大手の電動モビリティーメーカーの同Yadea Technology Group(雅迪)が製造する。向かうところ敵なしという布陣だ。

 さらにGogoroは、インド、インドネシア、シンガポール、イスラエルにも電池交換サービスを広げつつある。