蓄電池を複数のユーザーでシェア(共用)して使うサービスは電気自動車(EV)の専売特許ではない。日本ではモバイルバッテリーで既にサービスが始まり、この秋には2輪車向けでも始まる。そしてこの電池は、ユーザー間だけでなく異なる用途の垣根を超えて横断的にシェアされていくことになりそうだ。
2輪車用の交換式蓄電池はEV向けと違って、約10kgと人が持てる重さだ。このため、EVとはやや異なる独自の使われ方が広まる可能性がある。それは、電池があたかも通貨のように人から人、そしてモノからモノへと渡り歩いていく使われ方だ。
10月下旬に「Gachaco」がスタート
それを実現しようとしているのがENEOSと日本の2輪車メーカー4社で設立したGachaco(ガチャコ)だ。同社は共通仕様に基づいて電池交換が可能な2輪車とその電池を開発。2022年10月下旬にも電池交換サービスを東京と大阪の一部地域で開始する(図1)。
当初のサービス内容は、台湾Gogoroが台湾で提供している2輪車向け電池交換サービスとよく似たものになりそうだ。つまり、電池交換可能な2輪車を販売すると共に、利用者の多い場所、例えばバイクを業務に使うような法人、駅やコンビニエンスストアなどに「バッテリーボックス」を設置して、利用者の利便性を向上させていくというものである。想定する電池の交換時間は「30秒」(Gachaco)と短い。
こうした電池のシェアリング(共用)サービスに加えて、電動2輪車自体のシェアリングサービスも当初から提供される。具体的には、日本で自転車のシェアリングサービス最大手であるOpen StreetがGachacoの電池を利用したサービスを始める。
ただし、その規模はかなり小さい。特定の法人向けに対応電動スクーター142台など。50万ユーザーがいる台湾のイメージからすると迫力に欠ける。GachacoもOpen Streetも、サービス提供2年目ぐらいまでは急激に規模を拡大する方針ではないという。理由の一つは「当初はまだ電池やバッテリーボックスが高価」(Open Street)だから。やはり、ビジネスを軌道に乗せることが一筋縄ではいかないことが分かっているだけに、当初は慎重を期する姿勢のようだ。
それでも電動2輪のイメージは大きく変わっていく。時期は未発表ながら、本田技研工業(ホンダ)、ヤマハ発動機、カワサキモータース、スズキの4社が発売する電動2輪は、原則としてこのGachaco対応になるはずだからだ。車両は電池なしで購入し、電池は所有からシェアリングによる利用へ、という形になる。
乾電池のようにマルチ利用へ
規模を別にするとここまではGogoroのサービスとほぼ同じだ。ただ、Gachacoの構想自体はそれよりもずっと遠大だ。電池の利用先は2輪車を超えて、超小型EVを含むマイクロモビリティー、一般家庭での定置型蓄電池、災害時の緊急電源、建設現場や農地での建機やトラクター、自動走行ロボット、アウトドアなどのレジャーといったさまざまな用途への2次利用、3次利用も想定する(図2)。同じ用途で電池を他人とシェアするだけでなく、異なる用途間でもシェアするのである。
Gachaco のCEO兼代表取締役の渡辺一成氏は、その狙いを「電池を劣化するまで使い切る」ことだと説明する。「これまでの電動バイクは、走っていない時間は電池も寝ているだけの時間になっていて稼働率が低い。シェアリングにすれば、稼働率を上げられる。ただし、電動バイクだけでは、電池の能力を使い切るまでに途中で捨てられてしまう。さまざまな用途であたかも乾電池のようにマルチに使って、電池の能力を最後まで引き出す」(渡辺氏)。それが、電池のトータルコストを大きく下げることにつながるとみる。最終的には、劣化して使えなくなった電池は、分解してリサイクルすることを想定する。