全2899文字

DXを推進する企業にとって、社員を対象にしたDX人材育成は重要施策だ。デジタル技術の担い手育成に失敗すれば、DXを柱とする経営戦略が画餅に終わるからだ。「教育効果なし」との懸念が現実にならないよう、育成策で工夫を凝らす必要がある。

 「(ドローンによる遠隔点検の解禁など)国が建設業のアナログ規制見直しを進める中、企業として先回りしてデジタル技術を活用できるようにしないと競争で優位に立てない」。こう危機感をあらわにするのが、大林組の安井勝俊DX本部本部長室室長だ。大林組は2022年度を初年度とする中期経営計画で、デジタル関連に5年で計700億円を投資するとしている。抜本的な業務プロセスの変革に加え、コンピューター上に建設物の3次元モデルを構築するBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)生産基盤への完全移行などを進める。

社員が使えなければ意味なし

 これらの施策全てに欠かせないピースが、「全社員をデジタル人材にする」という野心的な目標を掲げたDX人材育成策である。「デジタル技術を展開しても社員が使えなければ意味がない」(安井室長)からだ。

 大林組に限らず、大手企業の多くはDXを中期経営計画の柱に掲げている。だがデジタル分野に数百億円を投じても、変革を自ら推進できる現場の社員や、変革にブレーキをかけず後押ししてくれるマネジャーがいなければ、その投資は無駄になりかねない。

表 社員を対象にDXの人材育成に取り組む企業の例
大手企業が社員を対象にDX人材育成に本腰
表 社員を対象にDXの人材育成に取り組む企業の例
[画像のクリックで拡大表示]

 例えばデジタル技術を使った新サービスを開発するには、顧客に近い業務担当者が、デザイン思考といったDX関連スキルを身に付けて、ニーズや要件を発掘していくことが欠かせない。

 IoT(インターネット・オブ・シングズ)の普及により大量のデータを取得できるようになった製造業の工場でも、製造装置や製造ラインなどに詳しい現場担当者にデータサイエンスの素養がないと、工場内のデータから製品不良の根本原因を探ることは難しい。

 企業がDXの担い手を確保する手段として、AI(人工知能)をはじめとする専門人材を中途採用する手もある。しかし、ブリヂストンの増永明CDO(最高デジタル責任者)・デジタルIT基盤統括部門長は「中途採用で獲得できればいいが、需給逼迫で相当厳しい。そこで社員を対象にしたリカレント教育を強化している」と説明する。