全2704文字
PR

 消費税の仕入れ税額控除に必要となる「インボイス制度(適格請求書等保存方式)」が2023年10月に始まる。制度開始まで1年を切ったが、制度に対する民間の理解は十分とはいえない。

 「適格請求書」という言葉から、企業内で主に対応すべきなのは経理・財務部門や取引先との支払業務に携わる営業事務の担当者と捉えられがちだ。しかし実際には、ほぼ全社員が制度への理解と対応が求められる。備品の購入やタクシー代の支払いなどで受け取る日常の領収書もインボイス制度の対象となるからだ。2023年10月からは領収書を正しく処理しないと税負担が増える恐れがある。

 対象になる事業者も幅広い。企業と個人事業主を合わせて日本に350万超あるとされる事業者に加え、給与所得者による副業なども仕入れや経費を伴う場合は制度の対象になると考えられるからだ。課税売上高が1000万円以下の事業者は現行と同じく免税の扱いを継続できるが、課税事業者になる選択肢もある。制度による影響を踏まえて、各事業者が自ら判断する必要がある。

紙やPDFの請求書類が混在、OCRが自動化の鍵

 商品やサービスの価格に上乗せされる消費税は、日本の制度では最終消費者が負担し、消費者に代わる形で事業者が納める。商品やサービスを届けるまでに複数の事業者が介在した場合は、それぞれの事業者が仕入れ価格と卸売りや小売りの価格との差額(付加価値)に税率を掛けた税額だけを納付する。

 つまり仕入れ価格に上乗せされている消費税額の分は、上流にある仕入れ先の事業者が既に支払っているので自らが納める消費税額から控除できる、仕入れ税額控除という仕組みがある。最終消費者が負担する消費税額を、商流に関わる事業者が付加価値の分だけ分担して支払うこの方法は、通称「バトンリレー方式」とも呼ばれる。

 インボイス制度は、消費税の仕入れ税額控除を受けるためには必ず「適格請求書」と呼ぶ様式を満たした請求書類を取引先から受け取ることを求める。適格請求書と従来の請求書との違いは大きく2点ある。1つは、国税庁に登録した課税事業者であることを示す、「T」の文字と13桁の数字からなる登録番号を記載すること。もう1つは、消費税額を10%か8%の税率ごとに様式に従って記載することだ。

インボイス制度で変わる請求書と領収書。課税事業者の場合は「T」の文字と13桁の数字で構成する登録番号などが記載される
インボイス制度で変わる請求書と領収書。課税事業者の場合は「T」の文字と13桁の数字で構成する登録番号などが記載される
(出所:国税庁の資料を基に日経クロステックが作成)
[画像のクリックで拡大表示]

 商品やサービスを仕入れて適格請求書を受け取った企業は、請求管理や会計のシステムに、請求書の記載通りに税額や登録番号を反映する必要がある。また免税事業者からの請求書は仕入れ税額控除ができないため、異なる処理が必要になる。取引先が多い企業では、請求や支払いに関わる書類をどう効率的に取り扱うかが大きな課題になりそうだ。

 郵送で届く紙の請求書やメールで送られるPDF形式の請求書、そしてデータ形式の「デジタルインボイス」が混在する「請求書洪水」ともいえる状況がしばらくは続くためだ。取引先から受け取った適格請求書が様式通りかを含めて、自動化を推し進めるにはOCR(光学式文字読み取り)機能の活用が鍵を握りそうだ。