2023年10月に始まる「インボイス制度(適格請求書等保存方式)」の準備で重要なステップが、取引先との取り決めや事前確認だ。消費税額を正しく計算するために必要となる「適格請求書」をどう受け渡しするか、取引先ごとに合意しておく必要があるからだ。
課税売上高が1000万円以下の免税事業者を巡る環境の変化も大きい。免税事業者には課税事業者に転換する選択肢が用意されており、実際に一定数の転換が進む見通しだ。課税事業者は取引先の免税事業者が今後も免税のままか課税事業者に転換したかを一つひとつ確認し、請求書の処理方法を適切に選ぶ必要がある。
免税事業者の扱いを巡っては、制度開始まで1年を切った現在でも、見直しや条件緩和などを強く要望している業界団体が数多くある。制度が一部見直される可能性も残されており、2022年12月にも政府が示す2023年度の税制改正大綱の動きにも注意を払いたい。
請求書や領収書から課税か免税かを見分ける
日本の消費税制度は、商品やサービスを消費者に届けるまでに取引に関与した複数の事業者が、消費税を分担して納付する「バトンリレー方式」を採る。それぞれの事業者は、卸売りや小売りの売上高から仕入れ額(消費税額を含む)を差し引く「仕入れ税額控除」を行ったうえで、自らが納付する消費税額を計算する。
インボイス制度では、仕入れ税額控除ができる条件が現行よりも厳格になる。具体的には、課税事業者の登録番号が記載された様式を満たす「適格請求書」を取引先から受け取ることを必須とする。登録番号を持たない免税事業者が発行する請求書や納品書は適格請求書としては扱えず、仕入れ税額控除ができなくなる。
このルールは、取引相手が不特定となる小売業やサービス業、タクシーなどで受け取る領収書でも基本的に同じだ。課税事業者が発行する領収書は「適格簡易請求書」となり、法人が経費精算に使う場合に仕入れ税額控除ができる。これに対して免税事業者が発行する領収書は登録番号がなく、消費税については仕入れ税額控除ができない。経費精算の際には、両者を見分けて処理方法を分ける必要がある。
注意が必要なのは、免税事業者が発行する請求書や領収書には国が定める様式がないことだ。このため両者を見分ける方法は「事業者の登録番号が記載されているかどうか」(国税庁の軽減税率・インボイス制度対応室)だけになる。
実際に、免税事業者が発行する領収書に消費税が記載されているケースが一部で見られるが、インボイス制度の導入後は消費税の控除ができなくなる。「紛らわしいので、制度導入後に免税事業者は消費税を記載すべきでない」という意見もあるが、実際には様々な記載方法が生じるとみられる。こうした状況に対して、ITベンダーはシステムで業務を効率化するポイントとして「経理部門へ領収書を後送して確認するのでなく、早い段階で帳簿と領収書のイメージをシステム上でひも付けたほうが正確さを担保しやすい」(ミロク情報サービス)と指摘する。
6年間で完全移行、免税事業者から課税事業者への転換は自己判断
免税事業者との取引については制度を円滑に導入するため、6年間の経過措置が設けられている。2023年10月1日〜2026年9月30日の3年間は免税事業者から仕入れた商品やサービスにかかる消費税額相当分の8割を、残る2029年9月30日までの3年間は同5割を、それぞれ控除できる。
経過措置が終わり完全移行した後は、免税事業者と取引をした課税事業者は仕入れ額に相当する消費税の負担がそのまま増える形となる。このため免税事業者は課税事業者から取引先として選ばれにくくなるなど、取引先を失うリスクが高まるとの見方が強まっている。実際に、インボイス制度導入の背景には免税事業者から課税事業者への転換を促すという政策的な狙いもある。