ロシアによるウクライナ侵攻で、新たな段階に入ったインターネットの分断である「スプリンターネット」。実は中国は長年にわたって、現在のインターネットの管理体制に異議を表明し、行動を続けている。
世界では現在、インターネットの管理を巡って、2つの陣営の対立が表面化している。一方の陣営は、米国や欧州など民主主義的な国家だ。これらの国々は、現在の「自由で開かれたインターネット」を尊重。インターネットは、エンジニアや企業、学者、市民、そして政府という多様な人々の意見を民主的に反映した「マルチステークホルダー」によって管理されるべきだという立場を取る。
もう一方の陣営は、中国やロシアなど権威主義的な国家である。これらの国々は、国家がインターネットの統制を強め、自国内のインターネットに支配力を及ぼすべきだという「サイバー主権」を掲げる。中国やロシアなどはその考えに基づき、「マルチラテラル」と呼ぶ国家間の交渉によってインターネットを管理するべきだという考え方を示す。
国家によるインターネット統制を求める中国
インターネットの基盤となる技術は、米国の研究開発プロジェクトから生まれた。現在のインターネットの管理体制は、米国の価値観を色濃く反映したマルチステークホルダーの考え方を基本とする。インターネットのアドレス調整などを担う民間非営利団体「ICANN」も、マルチステークホルダー体制で運営されている。インターネット関連技術の標準化を推進する任意団体「IETF」も、誰もが個人で参加でき、技術仕様を提案できるというマルチステークホルダー体制の運営だ。
中国やロシアは、このような現在のインターネットの管理体制は米国による影響力が強いと批判を繰り広げる。さらに先進国中心の管理体制であり、新興国の意見を十分に反映できていない点も指摘する。エドワード・スノーデン氏が2013年に、米国家安全保障局 (NSA) によるインターネット・電話回線傍受の実態を暴いたことも、米国中心の管理体制に影を落としている。
中国やロシアは自国において、国家によるインターネットの統制を強めている。中国は、国内からの欧米諸国の情報やサービスへのアクセスを遮断する「グレート・ファイアウオール」を長く運営している。中国はカンボジアなどに同様の技術を支援しているといわれる。
ロシアは2019年、政府によるネットワークの集中管理強化を目的とした法案を可決した。「RuNet」と呼ばれるロシア国内のインターネットについて、国家による監視を強めて、グローバルなインターネットと切り離した「ロシア化したインターネット」を目指しているとされる。
ITUへの影響力を強める中国
インターネットの管理を巡る2つの陣営のせめぎ合い――。
サイバー主権を標榜する中国は、国家主導によるインターネットの管理を目指して、国連の専門機関であるITU(国際電気通信連合)での影響力を高める行動に出ている。
ITUは1865年に設立という古い歴史を持つ団体だ。設立当初は電信の相互接続の調整を担っていた。現在は、電気通信の国際標準化や周波数帯の国際的な分配、途上国への支援などを担っており、193の国・地域と約700の民間団体が加盟している。投票権は一国一票が基本であり、マルチラテラルな体制で運営されている。
中国がITUでの影響力を高める動きに出ている理由は、ICANNやIETFが担うインターネットの管理体制をITUへ移管できれば、一国一票というITUの仕組み上、インターネットの管理を国家主導へと転換できると考えているからだ。さらにITUで策定された標準(勧告)は、「デジュール標準」と呼ばれ、国や政府間での扱いを約束された国際標準となる。デジュール標準になれば、新興国にも広まりやすい。中国が掲げるインフラ開発プロジェクト「一帯一路」構想と親和性が高い点も背景にあるのだろう。