品質不正防止の第5条は「周りに感謝しよう」です。
前回までは、経営者や従業員の言動と品質不正の温床との関係について考えてきました。その結果、「あれがだめ、これがだめ」といった話になっていた面があります。今回は品質不正の事例を反面教師として、理想の上司像を考えます。
理想の上司像は古くから議論されているテーマですが、ここでの考え方の軸は不正防止だけではなく、組織の成長との両立にあります。不正防止と成長はトレードオフのような関係に見えるかもしれませんが、実は共通点があります。それは働く人にとって幸せな職場かどうかという点です。
品質不正は誰もやりたくてやっていることではありません。つまり、品質不正に逃げるしかない職場で働くことは不幸そのものです。逆に、不正に手を染めずに仕事ができて、その仕事が成長し続けるなら、これに越したことはないと言えます(図1)。
ビジネスパーソンが見失いがちな生き方
これまでの連載でも述べてきたように、パワハラ体質の職場での不正は、成績不振の部門において管理職が保身のために部下にパワハラを行って目標を達成させようとするときに起こりがちです。パワハラから逃れたい部下が、不正行為によって目標達成を偽装してしまう、というメカニズムが働くのです。
ビジネスは自由競争なので、勝ち負けがあるのは必然です。スポーツでは負けたチームの指導者が選手の健闘をたたえるシーンがよく見られます。では経営陣が不振部署の努力をたたえることがあるでしょうか。「業務目標は達成するのが当たり前で、未達は許さない」という経営者がほとんどかと思います。
不振部署の管理職は経営陣から厳しく責められます。その管理職が経営からの圧力を自分1人で受け止め、現場では部下の努力をたたえて激励できるなら、希望の持てる職場になっているはずです(図2)。
このように考えると、「感謝」と「保身」は対義的な上司像を表しています。本来なら「保身」の対義語は「献身」ですが、人物像としては「感謝するリーダー」のほうが今の時代に合っています。往々にして仕事ができるビジネスパーソンは感謝の気持ちを忘れがちなだけに、「部下に感謝するリーダー」がこれからの理想の上司像になってほしいと思います。