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 品質不正防止の第6条は「人事異動をポジティブに捉えよ」です。

 不正防止の観点では、人事ローテーションには次の3つの目的があります。

[1]取引先との癒着を防ぐ

[2]不正を引き継がせない

[3]しがらみのない外部の人間による監視を利かせる

 このうち[2]と[3]については、担当者が替わるだけでは不正を防止しにくいという課題があります。なぜなら人事ローテーションで異動してきた人が着任先で不正に気付いても、発言力が弱いと不正の引き継ぎを拒否できないかもしれないからです。

 従って、人事ローテーションが[2]と[3]の目的につながるかは、発言力のある技術者がローテーションの対象になっているかが重要なポイントです(図1)。この観点で今回は人事ローテーションの量(人数)ではなく質の問題を考えます。

図1 人事ローテ―ションの質
図1 人事ローテ―ションの質
(出所:安岡孝司)
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スズキの再発防止策に学ぶ

 人事異動が少ない職場で品質不正が起きるのは珍しいことではありません。例えば、2018年に検査不正が発覚したスズキの調査報告書 は次のような点を指摘しています1)

[1]工場の検査員は、他部署や他の工場に異動することが少ない

[2]上長・先輩検査員によって人間関係に基づいた教育・訓練が行われ、上長・先輩検査員に迎合しやすい雰囲気だった

[3]人事異動によって、しがらみの少ない人からの指摘で不適切行為が発覚する機会がなかった

 [1]は検査部門の人事の固定化、[2]は人間関係の癒着、 [3]は閉鎖的な職場の弊害を示しています。スズキの件については本連載の2回目で説明しましたが、同社では検査部門の社内での立場が低いために発言力が弱く、不正を防止できませんでした。まとめると、検査部門の発言力の弱さと固定的な体制によって、不正への監視力が弱まったといえます(図2)。

図2 不正への監視力が弱まる要因
図2 不正への監視力が弱まる要因
(出所:安岡孝司)
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 同社の調査報告書では、再発防止策として次のような人事異動の促進を提案しています。

[4]各工場の検査課・管理課間の検査員の人事異動を促進

[5] 完成検査業務の知見を持つ人材が他部門に配置されるように、製造部門や営業部門を含めた他部署との間での人事異動を促進

 注目ポイントは[5]で、検査部門(弱い部門)と製造部門(強い部門)との人事ローテーションを提案しているところです。