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 品質不正防止の第7条は「兼務を断ろう」です。

 人材不足が背景にあるのでしょうが、複数の部署を兼務している会社員は少なくありません。中には“兼務は出世の近道”と思っている人が多いのか、「3つの部を兼務している」などと兼務の数を誇る人もいます。特に経営企画部と社内監査部の部長を兼務しているような人は、経営陣からの信頼が相当厚いように見受けられます。しかし兼務には重大なリスクが隠されています。

兼務のリスクとは

 ここで言う兼務とは、複数のプロジェクトを抱えるような兼務ではなく、複数部門を兼任する人事的な兼務を指します。製造と検査のように、組織単位として分離されているべき業務を一人の人間が担当することも兼務の1つと考えます。

 製造と検査の兼務には2つのリスクがあります。1つは企業にとってのリスクで、検査の見落としや、意図的な不正検査が起きやすいことです。もう1つは担当者にとってのリスク。製品に問題があるときに不正検査でごまかすしかないという不本意な立場にいることです。

 製造部の中に検査課がある場合は製造部が検査の権限を持つことになります(図1)。この体制では部長に収益責任があるので収益優先に陥りやすく、検査が甘くなるという弱点があります。1つの事業部の中に製造部と検査部がある体制でも同じようなものです。この弱点を補うには、本社の品質保証本部が検査課を監視する体制が必要です(図2左)。

図1 兼務や権限集中によって検査が甘くなる
図1 兼務や権限集中によって検査が甘くなる
(出所:安岡孝司)
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 検査部門の独立性を確保するには、検査部門を本社機能の傘下に入れて、事業部から切り離す必要があります(図2右〕。この場合、検査部は各製造拠点(工場)の敷地内で仕事をしていますが、人事的には本社の品質保証本部の傘下です。この体制のほうが、工場の事業部長の配下であるよりも公正な立場で仕事ができます。

図2 検査部を監視する体制と検査部を独立させる体制
図2 検査部を監視する体制と検査部を独立させる体制
(出所:安岡孝司)
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