全4319文字

 会社はプロフィットセンターとコストセンターに分かれています。プロフィットセンターとは収益部門のことで、営業・販売や製造部門などが該当します。コストセンターとは人事や財務などの本社機能の間接部門です。事業部内の検査部門はプロフィットセンターに含まれていますが、現場ではコスト部門とみられることがあります。

 品質不正防止の第2条は「コスト部門を軽視するな」です。ここでいう「コスト部門」とはコストセンターだけでなく、検査部門のように現場でコストとみられがちな部門も含めます。

稼ぎ頭の盲点

 どの会社にもやり手の営業パーソンやすご腕の技術者がいると思いますが、自信過剰のあまり傲慢になっている場合があります。そうした人は職場での立場が強いので、たしなめる人がいなければ言いたい放題になりがちです。

 例えば稼ぎ頭の社員が不自然な領収書で精算しようとし、経理の担当者が「この支出は業務上の必要性が認められない」と断りに来たとしましょう。内部統制の弱い会社では声の大きいほうが主導権を握ります。稼ぎ頭が「稼ぐことの苦労を知らないくせに、文句を言うな」などと声を荒らげると、経理はしぶしぶ従わされかねません。

 稼ぎ頭の辣腕社員は自分が会社を支えていると錯覚しやすく、管理部門で仕事をしている人の給料まで背負わされていると思いがちです。これはある面では正しいのですが、盲点があります。それは管理部門の軽視につながるという危険性です(図1)。

 稼ぎ頭が管理部門を見下すようになると、上のケースのように無理を通そうとするので、経理不正や検査不正が起きやすくなるからです。

図1 コスト部署を見下すことの危険性
図1 コスト部署を見下すことの危険性
(出所:安岡 孝司)
[画像のクリックで拡大表示]

 ものを作る人にとって、自分の作ったものを他人にチェックされるのはどういう気持ちでしょうか。「検査で不合格品をはねてくれれば安心」という会社なら、検査部門の存在感や地位は十分高いはずです。

 逆にギリギリの生産計画に追われていて、不合格品が出たときに作り直しが利かないケースもあります。この状況では、検査部門は製造部門にとって面倒な存在です。不合格判定を免れるためには、検査部門を抱き込んで無理やり合格させてもらうしかありません。

 つまり不正防止のポイントは、検査部門が周りの顔色をうかがうことなく、いつも毅然と対応できるかです。これは検査担当者の精神的な独立性の問題ですが、そのためには検査部門の組織的な独立性の確保が前提になります。しかし、生産性向上やコスト削減が優先される中、検査部門は組織的に軽く扱われやすいという傾向が否めません。