品質不正防止の第4条は「不正の温床パワハラをなくせ」です。パワーハラスメント(パワハラ)体質の会社では品質不正や会計不正が起きやすいからです。
パワハラ体質の職場では従業員が心身を傷めるケースが珍しくありません。どの経営者も幸せな職場にしたいはずですが、真逆の環境といえます。では、幸せな職場かどうかをどうすれば測れるのか。その方法の1つに、企業理念に共感する社員の割合を測るというものがあります。企業理念は会社が目指す理想像であり、人道的な目標が掲げられることが多く、そのような理想像に共感して働けることは幸せだといえるからです(図1)。
経営者と社員に企業理念が浸透しているか
企業理念は会社の顔のようなものですが、筆者の胸に響いた企業理念の1つに、サントリーの「水と生きる」があります。子供にもわかる言葉で、「環境、人、品質を大切にする」という思いを一言で伝えているところに共感を持ちました。
ただし、経営理念が立派なことと、それが経営者や社員に浸透しているかは別の話です。例えば、次のような企業理念を掲げている会社があります。
・社員の多様性を尊重し、活気あふれる企業風土をつくる
この理念には、
社員の個性を活かし、社員がイキイキと働くことができる土台づくりに努める
といった思いが込められているとのことです。
このような理念を経営者や社員が共有しているなら、品質不正は起きにくいでしょう。なぜなら品質不正に逃げるしかない職場で社員がイキイキと働けるはずがなく、活気に満ちているとは考えにくいからです。
しかし、理想と現実は違います。実は大規模なディーゼルエンジンの排ガスデータや燃費について不正のあった日野自動車が、これを企業理念の基本方針として掲げていました1)、2)、*1。同社の品質不正に関する調査報告書(以下、調査報告書)に記されている下記のような従業員の声を読むと、理想とかけ離れた実態が分かります3)。
[1]先輩が新人にする教育は高圧的で、脅迫することで、『上には逆らえない』を植え付けさせるもの
[2]中途入社であるが、前職に比べると個人的意見が言いづらい、喧嘩口調といった社風がある
[3]上の意見は絶対で、神様の様に崇め、上(神様)が決めたことが絶対であり、未達成はありえない風土
「上司は絶対」というときは、全幅の信頼をおける立派な上司という場合がありますが、日野自動車の上司は疑問や反論を認めない意味での「絶対」だったようです。
また、調査報告書には次のような記述もあり、パワハラ体質の役員や幹部に甘かったことが分かります。
[4]役員・上級管理者はパワハラで告発されても特に処分が甘いと見られている
経営者の圧力が厳しすぎると、その圧力が管理職によって現場で増幅されるので、高圧的・軍隊的な社風になり、パワハラ体質が広がります。パワハラ体質の職場では、上からの無理な指示に対して意見が言えないので、現場が不正行為に逃げる場合があり、品質不正が起きやすいのです(図2)。