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 水中での無線通信やセンシングに関する技術開発が加速している。急拡大が見込まれる洋上風力発電などでニーズが高まっているからだ。レーザーなどの技術開発が進んだことで100mを超える長距離通信が可能になり、2ギガビット毎秒(Gbps)を超える高速通信の実現も視野に入ってきた。

山梨大学の研究グループによる水中光無線通信のデモ
山梨大学の研究グループによる水中光無線通信のデモ
水槽の右側にある光送受信モジュールから緑色レーザーを送信し、水槽の左側で反射させて信号を受信している(写真:日経クロステック)
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 水中環境向け機器やシステムの開発を推進する「ALAN(Aqua Local Area Network、エーラン)コンソーシアム」は、最先端IT・エレクトロニクス総合展「CEATEC 2022」(リアル開催は幕張メッセで2022年10月21日まで、オンライン開催は同月31日まで)で、水中IoT(インターネット・オブ・シングズ)に関連した技術を複数展示した。参加組織である山梨大学工学部の塙雅典教授・中村一彦助教らの研究グループは、短波長の可視光レーザーによるOFDM(直交周波数分割多重)信号を使い、水中光無線通信の伝送速度を2Gbpsまで高める実験成果を紹介した。レーザー光源や送受信機の設計改善で、さらなる高速化を目指す。

 水中では、電波や赤外線が水に吸収されて減衰する。そのため、地上で使っている多くの無線通信が水中では使えない。そこで、水に吸収されにくい青や緑のレーザー光を使い、信号を伝送する方法が検討されている。深海環境において、周波数2.4GHzのWi-Fiは約5mmで受信信号電力が10%にまで減少するのに対し、青色光の受信信号電力が10%になる距離は約50mと長い。

水中光無線通信の装置の概要
水中光無線通信の装置の概要
(出所:山梨大学)
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 CEATEC会場では、緑色レーザー光を使って1.25Gbpsで伝送する高速水中光伝送デモも初めて披露した。PAM4(4値パルス振幅変調)信号を使い、1.5mの光路長の水槽内を透過させても安定した受信波形が得られた。

 水中機器スタートアップのトリマティス(千葉県市川市)は2021年11月、相模湾沖の深海において100m以上の通信距離で1Gbpsの高速光無線通信に成功した。送信機をマルチビーム化したり、受信機の光電子増倍管をアレイ化して受光効率を高めたりするなど工夫を施した。同社取締役の白鳥陽介氏は「世界初の成果で、従来の音響通信の数千倍以上の高速化が可能になる」と語る。現在は用途の開拓やサービス開発を進めているという。

トリマティスは深海で伝送速度1Gbpsで100mの水中光無線通信を実証した
トリマティスは深海で伝送速度1Gbpsで100mの水中光無線通信を実証した
(出所:トリマティス)
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