伊藤忠商事は2023年度までの中期経営計画で、「マーケットインによる事業変革」と「SDGsへの貢献・取組強化」を基本方針に掲げています。前者ではファミリーマートをはじめとする消費者接点を活用して、多様化する市場ニーズを捉え、商品・サービスの新しい価値を提供することを目指し、後者ではAI蓄電池による分散型電源プラットフォームの構築や、サプライチェーン・物流の最適化などによって持続可能な社会の実現に貢献します。
立ち向かう課題が困難であるほどIT・デジタル技術が真価を発揮します
いずれも、IT・デジタル技術の活用なしには実践できません。ここで、重要な役割を果たすのが、伊藤忠商事のIT・デジタル戦略部と情報・金融カンパニーの情報・通信部門という2つの組織です。IT・デジタル戦略部は、情報システム部門として社内のITインフラを支えるだけではなく、当社の事業領域におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援しています。情報・通信部門は、SIerの伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)をはじめ、DXを担うグループ企業群を有しており、両組織が有機的に連携しながら、グループ全体の経営管理の高度化やビジネスモデルのブラッシュアップを図っています。
これまで培ってきた情報通信分野の力、具体的には、IT・デジタル技術を活用する力、顧客接点を基に顧客体験価値を改善する力、そしてベンチャー投資を通じたスタートアップへのアクセスを生かして新規ビジネスを開発する力、これらをDXに生かしたいと考えています。
現場が抱える業務課題を最新のデジタル技術で解決
DXはともするとそれ自体が目的化し、「何のためなのか」という本質が見逃されることがよくあります。重要なのは、現場が直面している課題に向き合うことです。
生活消費分野における中核事業であるファミリーマートでは、店舗の省力化に向けて商品発注などの店長業務をアシストする人型AIアシスタントや、店舗の棚に飲料を自動陳列するロボットを導入するなど、業務効率化を進めています。また、お客様の購買行動や電子決済データなどからピンポイントでターゲティング広告を配信できる広告配信事業を立ち上げるなど、新たなコンビニ像を具現化しようとしています。
伊藤忠グループである日本アクセスの物流センターでは、ファミリーマート向け商品をAIに発注させることで発注業務量の半減と在庫の最大約30%減を実現しました。現在ではシミュレータを開発して配送ルートを最適化するなど、物流網の効率化も進めています。
変化する消費者嗜好への対応が求められる食料分野でも、DXは不可欠です。これまで食品分野の新商品開発では人の勘や経験が頼りでしたが、ニーズにマッチする商品を送り出すためには、市場からの膨大なデータをタイムリーに分析しなければなりません。当社の食料カンパニーと情報・金融カンパニーは、味・におい・食感などの味覚データと購買データやSNSデータなどを掛け合わせたデータ解析システム「FOODATA」を開発しました。ポイントは、商品開発における人の経験や勘を排除するのではなく、人の判断にエビデンスを添える形で迅速な意思決定の支援に注力したことです。既に大手食品メーカーや大手小売企業などで利用が始まっています。
最新技術を活用したシステムでSDGsにも貢献する
SDGsへの貢献は企業の使命です。ここでもデジタルが力を発揮します。好例が、天然ゴムのトレーサブル(追跡可能)なサプライチェーンの実現です。主に東南アジアで生産される天然ゴムはタイヤなどの原料となる資源ですが、環境保護区での採取や、貧困層からの搾取、児童労働力の利用といった問題が伴っています。本来は問題がある取引は排除すべきなのですが、タイヤメーカーなどに納入されるまでに複数の事業者が関わるため、不当に生産されたものかどうかを把握するのは困難でした。当社とCTCは原料に関する取引情報などをブロックチェーン上に記録するトレーサビリティシステムを確立。2021年末にこの仕組みを利用した商用展開を英国の市場でスタートさせました。
エネルギー・化学品カンパニーでは、蓄電システムを核とする分散型電源プラットフォームの構築に取り組んでいます。当社の合弁会社が開発したAI機能搭載の家庭用蓄電システムは、気象予報や家庭の電力需要パターンなどを分析・学習して蓄電池の充放電を制御することで、効率的な電力消費を可能にします。このシステムを事業用の分散型太陽光電源とも組み合わせ、複数の発電・蓄電システムを制御していけば、電力でつながる新たな経済圏が確立できるかもしれません。
地政学リスクやコロナ禍による経済の停滞など、社会情勢の変化は激しく、困難な課題が増える一方です。だからこそ現場の課題と技術を組み合わせてDXを断行する必要がある─。総合商社として自社やグループの課題を横断的に解決するだけではなく、DXを通じて得た自らの知見をお客様に提供することで社会貢献を果たし、企業理念である「三方よし」を体現していきます。
本記事は2022年8月24日~26日にオンライン開催された「IT Japan 2022」のリポートです。