世界情勢が揺れ動く中、日本企業を取り巻く課題はさらに多様化しています。その1つが、ステークホルダーを意識した企業活動への転換です。最近ではパーパス(存在意義)経営への関心が高まっており、多くのCEOが重要性を認識するようになりました。しかし現実には、業績に対するESG施策の貢献度をあまり高く評価していないなど、社会的意義を追求する姿勢とは矛盾するケースも見受けられます。
パーパス、多様性、テクノロジーが企業のレジリエンス経営を成功へと導きます
デジタル競争力やダイバーシティー、働き方改革といった面でも、日本は欧米の先進諸国に加えアジアの一部からも立ち後れています。法務・コンプライアンス部門の専任役員を置いていない企業も多く、リスクマネジメント体制も脆弱です。
パーパスには中身が必要 心理的安全性の上の多様性
こうした状況の下、経営者はどういった役割を果たしていくべきなのか。以下のポイントがあると考えています。
1つ目は、先にも触れたパーパス経営の推進です。これからの企業には、パーパスの再定義によって求心力を高めて、社員を含むステークホルダーを牽引し、不確実性の時代を切り開くことが求められます。再定義したパーパスには「企業としての社会的存在意義が入っている」「社員と会社の方向性が合致している」「ステークホルダーの共感が得られる」という中身が備わっていなければなりません。
ライオンでは、「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する(ReDesign)」をパーパスとしていますが、歯磨きや洗濯といった日々の生活習慣に貢献してきた同社らしさが表れていますし、受け取る側にも分かりやすい内容です。パーパスを追求する上では社員の信条や行動の拠り所となるものが必要ですので、「価値は顧客が決める」「自分の心に従い、自ら動こう」など、5つのBeliefsも併せて制定しています。パーパスを社内外に伝えていくための自社メディアも開設しました。
2つ目はダイバーシティーマネジメントです。ここでは多様な個性が最大限に力を発揮できる組織を作るとともに、外部リソースもダイバーシティーの1つと考えて積極的に活用・協業することが重要になります。ジェンダー、年齢、国籍、職歴を超えた多様性を認め、人々が安心して活躍できる心理的安全性を確保した上で、多様な人々が柔軟かつ継続的に働ける環境を整備していくことが求められます。
これを実践しているのがダイキン工業です。同社では、2011年から経営トップ直轄の女性活躍推進プロジェクトを開始し、育児休暇からの早期復帰支援や保育者の自宅派遣サービスなど、女性のキャリアアップ支援に力点を置いた施策を展開しています。多様な人材の成長が、会社の発展にもつながると考えているのです。
経営は荒波を進む船 パーパスで一丸となり乗り越える
3つ目はデジタル活用と人材育成です。企業の変革やイノベーションを進めるには、システムやツールの導入にとどまらないデジタル、データの利活用とこれを可能にする人材育成が必須です。旧態化したレガシーシステムから脱却し、様々なデータを生産性向上やビジネスモデル変革、イノベーション創出につなげるとともに、取り組みを担う人材への投資も進めていかなければなりません。
好例が三井物産です。同社では、世界中のリアルなビジネス現場にデジタルの力を加えてDXを加速する取り組みを推進しています。DX事業戦略とデータドリブン経営をデジタル活用領域として定義し、効率化・最適化と新たな価値創造の両立を図っています。エネルギーソリューション、ヘルスケア・ニュートリション、マーケット・アジアの3つをStrategic Focusと設定し、スタートアップとの連携にも積極的に取り組んでいます。同時に企業変革に必要なDX人材を定義し、独自の育成プログラムを展開することで、社内のDX人材の育成も図っています。
最後は短期的視点と長期的視点を両立したリスクへの対応です。今後は顕在化したリスクに対症療法的に対応するのではなく、体系的にリスクを捉え、将来予測に基づき迅速に対応することが求められます。多様なリスクを司る法務・コンプライアンス部門の体制拡充やデジタル化も欠かせません。
体系的なリスクマネジメント体制の構築に成功しているのがキユーピーです。同社では選定したリスクを経営への影響の大きさとマネジメントのコントロールのしやすさの2軸で評価し、重要性の適時評価と機敏な対応を実施しています。
自社を取り巻く主要リスクについても、市場動向、製造物責任、システム障害など9つの領域を定義し、関連する各事業部門で個別モニタリングするだけでなく、全社的な課題はリスクマネジメント委員会とも連携して対応にあたっています。バリューチェーンにおけるリスクと機会を網羅的に勘案し、持続的な成長を追求している点も注目されるでしょう。
企業経営は激しい環境変化やリスクに満ちた荒波を進む船のようなものですが、目指すべきパーパスを設定し、会社と社員が一丸となり、多様な価値観を尊重してテクノロジーを駆使していくと同時に、リスクマネジメントを効果的に行っていくことによって、必ずこれを乗り越えられるはずです。当社ではこうしたレジリエンス経営の実現を応援していきます。
本記事は2022年8月24日~26日にオンライン開催された「IT Japan 2022」のリポートです。