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 竹中工務店は長期経営ビジョンの「2030年にありたい姿」に基づき、全社でDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進している。デジタル技術を活用した業務効率化では、従来ホストコンピューターで稼働させていた人事関連システムをSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)などを活用して刷新する。このプロジェクトは2020年3月に始めており、一部のシステムを既にカットオーバーさせ、現在も進行中だ。

 2022年4月からは、大幅に改定した新人事制度と新人事統合システムの運用を始めた。新人事統合システムは米Oracleの「PeopleSoft」「HCM Cloud」で構築し、身上申請や私有車利用関連の申請など人事主要領域をカバーする。

 社員にとっては新人事制度と新システムの両方に対応することになり、負担が大きい。手続きの間違いや操作ミスなどの混乱を招きかねない。そこで人事関連システムのカットオーバーに合わせて、米WalkMeのデジタルアダプション(デジタル定着)ツール「WalkMe」を導入した。

 2022年10月時点での適用対象は、新人事統合システム、無限(東京・新宿)の通勤費精算パッケージ「らくらく通勤費」(SaaS版)で構築した「通勤定期管理システム」、ソリューション・アンド・テクノロジー(東京・千代田)の「WiMS/SaaS 勤務管理システム」で構築した「勤怠管理システム」の3つだ。通勤定期管理システムは2021年11月から、新人事統合システムは2022年4月からそれぞれ運用を開始している。2020年6月から運用している勤怠管理システムについては、2022年7月にWalkMeを適用した。

 WalkMeの導入を主導した竹中工務店の串崎修人事室制度企画運用グループ長は「新システムの使い勝手を大きく高められる」と狙いを語る。

竹中工務店がWalkMeで作成したガイドの例
竹中工務店がWalkMeで作成したガイドの例
(出所:竹中工務店)
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導入の目的は大きく3つ

 竹中工務店をはじめデジタルアダプションツールを導入する企業が相次いでいる。同ツールは、システムの使い勝手を高めて、利用者が最初から適切に使いこなせるようにするものだ。竹中工務店が導入したWalkMe以外にも、スタートアップのテックタッチ、STANDSなどがツールを提供している。ベンダー各社が提供するツールは共通して、SaaSを含む様々なアプリケーション上にガイドを表示したり、表示したガイドをどれだけの利用者が使ったのかを解析したりする機能などを備える。

 デジタルアダプションツールは社内向けシステムと社外向けシステムの両方に適用可能だ。先行しているのは社内システムへの導入であり、ガートナージャパンの針生恵理リサーチ&アドバイザリ部門シニアプリンシパルアナリストはその目的を大きく3つに分類する。1つめは、利用者がシステムを使いこなせるようになるまでの「ダウンタイム」を減らすこと。2つめは、利用者からシステム管理者への問い合わせを減らし管理者の負担を軽減することだ。

 これらの背景にはSaaSの導入増加がある。一般にSaaSは、導入企業が個別にUI(ユーザー・インターフェース)を変更するのは制限が大きい。そこでデジタルアダプションツールによって使い勝手を高める。

 オリンパスは独SAPのSaaSである「SAP Concur Expense」で構築した勤怠管理システムにWalkMeを導入した。オリンパスの田中隼人財務部門財務オペレーション・コントロールスーパーバイザー係長は「(UIなど)Concur Expense上で変更できる領域は限られているため、WalkMeのガイドで利用者を支援する。財務部門が主幹となって、利用者の意見や要望を吸い上げ、ガイド開発に生かしている」と語る。

 デジタルアダプションツールの導入目的の3つめは、利用者のアクション(操作)を可視化して、システム管理者が利用者のニーズを把握することだ。システム画面に表示したガイドごとにそれを使った利用者数を集計。ガイドの文面や表示方法の改善に役立てる。

 デジタルアダプションツールを、社外向けシステムに適用する事例も登場している。例えばリクルートは、主に個人経営の飲食店向けに提供する経営支援サービス「Airメイト」にSTANDSの「Onboarding」を導入しガイドを表示している。社外向けシステムへの適用でも、目的はおおむね同じだ。システムの使い勝手を高めたり、利用者のニーズを把握したりする。