船底を数十cm~1mほど水面から浮き上がらせ、水面を滑空するかのように進む船が海上を行き交う。2025年には、大阪湾でそんな光景が見られるかもしれない。
2025年4月に大阪市で開催される「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)」に合わせて、スイスのベンチャー企業2社が、電動の水中翼船の提供に乗り出そうとしている。2社とは、MobyFly(モビフライ)とAlmatech(アルマテック)だ(図1、図2)。
MobyFlyは大阪市、Almatechは神戸市と連携する注1)。両社がともに狙うのが、関西国際空港、万博会場である大阪市の夢洲(ゆめしま)、神戸空港島を結ぶルートである(図3)。ただし、提供する船の大きさやターゲットが違う。MobyFlyが提供するのは乗客20人または60人が乗れる船で、用途としては乗り合いバスのような運用を狙う。一方、Almatechは乗客が6人までの水上タクシーを提供する。
水中翼船と聞くと新しさを感じないが、これまでと大きく2つの点で異なる。まずは動力。今回の船には電動モーターが利用される。従来はディーゼルエンジンやガスタービンが使われていた。
もう1つはターゲットだ。これまでの水中翼船は、離島など比較的遠い地域への旅客・貨物の高速輸送が目的だったが、都市内の交通手段と位置付けている。「道路やレールを敷設するのには費用や時間が必要だが、(海や湖、川など)水路は自然のものでそうした問題がない」(MobyFly共同創業者でCEOの Sue Putallaz氏)
エネルギー効率が高く酔わない
海上交通を提供したいのであれば、現行の水上バスのように、水中翼を持たない普通の船でもよいのではないかという疑問も浮かぶ。既に、水上バスは実用化されている。両社によれば省エネ性、速度、快適性の3点で水中翼船が優れているとする。
まず省エネ性と速度について。巡航時には、水中にある水中翼の揚力によって船体が浮き上がる(図4)。このとき、水の抵抗を受けるのは水中翼とそれを支える支持材のみなので、船底全体が水に沈む従来の船と比べて推進エネルギーは小さくて済み、速度も上げられる。MobyFlyも、Almatechも時速50km程度で運用することを計画している。MobyFlyの試算によれば60人の乗客が乗れる船体の場合、1人当たりの輸送エネルギーがディーゼル船と比較しておおよそ30%で済むという(図5)。
快適性については、水中翼は波の下にあり、波の影響を受けず揺れないので、船酔いはしないとする。姿勢は、ほぼ水平になるようにフラップをコンピューター制御する。