全2445文字

 全長約500km。スイスの主要都市間を物流トンネルで結び、小包だけを運搬する。スイスの民間企業Cargo Sous Terrain(CST)が、そんな壮大な計画を同国内で進めている(図1)。

図1 全長約500kmのトンネルで小包を運搬する「Cargo Sous Terrain(CST)」
図1 全長約500kmのトンネルで小包を運搬する「Cargo Sous Terrain(CST)」
(出所:CST)
[画像のクリックで拡大表示]

 地下平均約50mに張り巡らされたトンネル内で動くのは、無人運転の電動カートである。ここに日本の宅配便が扱うような小型荷物を入れ、目的地近くの地下拠点まで運ぶ(図2)。この地下拠点から地上にある物流拠点へ、エレベーターで電動カートごと上げる。物流拠点ではカートからの荷物を待ち構えたトラックなどに移し替える。その先は従来通りの地上物流が担う。

図2 地下の拠点から荷物をカートごと地上の物流拠点に上げる
図2 地下の拠点から荷物をカートごと地上の物流拠点に上げる
(出所:CST)
[画像のクリックで拡大表示]

 トンネルは、スイスの東端近くに位置するザンクト・ガレンから、チューリヒ、バーゼル、ベルン、ローザンヌ、西端のジュネーブといった主要都市をほぼすべて結ぶ(図3)。都市内ではトンネルを枝分かれさせて拠点を細かく用意し、居住エリアの半径5km内に拠点を設ける計画である。

図3 スイス国内を東西に縦断して主要都市を結ぶ
図3 スイス国内を東西に縦断して主要都市を結ぶ
(出所:CST)
[画像のクリックで拡大表示]

 建設開始は2026年。2031年に第1弾として倉庫や流通施設のある工業地帯であるヘルキンゲンと、スイス最大の都市チューリヒの間、約67kmにトンネルを完成させる(図4)。この間には10の物流拠点を用意する。その後も、段階的にトンネルを延伸し、2045年にスイスを縦断するシステムを完成させる計画だ。総工費は300億スイスフラン(4兆4700億円、1スイスフラン=149円で計算)規模を見込む。

図4 第1弾はチューリヒとヘルキンゲンを結ぶルート
図4 第1弾はチューリヒとヘルキンゲンを結ぶルート
(出所:CST)
[画像のクリックで拡大表示]

 荒唐無稽にも思えるこの計画だが、その実現性はかなり高い。スイスの国策として官民が協力し、有力企業が中心になって推進しているからだ。

 まず、スイス連邦政府は2021年12月、地下の物流トンネルのための新たな法案「Underground Freight Transport(地下貨物輸送)」に関する連邦法を可決した。これにより、ヘルキンゲンとチューリヒの間のトンネル建設計画を進めることが国家的な事業として承認された。

 この計画を進めるCSTの体制も盤石だ。CSTには、スイスで活動する多くの有力企業が出資者として名を連ねる(図5)。特に当事者としてCSTを利用する、小売りや物流に関連する企業が多く含まれることが期待の大きさを裏付ける。例えば、小売りではスイスの2大スーパーマーケットチェーンMigrosとCoop、物流では郵便事業を行うSWISS POSTや、スイスの国有鉄道会社SBB(Schweizerische Bundesbahnen)、民間の運送会社などが出資をしている。この他、通信会社であるSwisscom、金融機関やインフラ投資会社、保険会社、ドイツSAPなどのソフトウエア会社が出資している。

図5 CSTへの出資者一覧
図5 CSTへの出資者一覧
(出所:CST)
[画像のクリックで拡大表示]