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 福岡市の住宅メーカーである芙蓉ディベロップメントは2022年8月、「健康寿命延伸住宅」の販売を始めた。健康寿命とは、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間を指す。快適な温湿度を制御する機能を備えつつ、バイタルデータに基づいて住人の健康維持を支援し、健康的な食事や運動習慣を促す機能を組み合わせて提供するものだ。

 販売前の実証実験では、こんな出来事があった。健康寿命延伸住宅で過ごしていた80代男性の体温や血圧などバイタルデータの異常を、健康管理システムが検知した。男性が病院で検査を受けると、早期の心不全であることが分かった。本人に自覚症状がない早期の段階で、カテーテル手術を受ける治療につながったという。

 近年、IoT(Internet of Things)をはじめとしたデジタル技術を組み込んだスマート住宅が増えている。スマート化の目的は当初、住人の快適性や利便性だったが、そこに「健康」が加わりつつある。いわば健康に住み続けられる「健康スマートハウス」の登場だ(図1)。

図1 「健康スマートハウス」の概要
図1 「健康スマートハウス」の概要
バイタルデータの測定と住環境の制御、医療機関とのデータ共有などによって、快適・便利だけでなく疾患予防や異常検知、治療支援などの健康維持を実現する。(出所:日経クロステック)
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 新型コロナウイルス禍で健康への意識が高まる中、健康維持などのニーズに目をつけた住宅メーカーが、健康スマートハウスへの取り組みを加速させている。しかし住宅メーカーにとって、疾患予防や異常検知などの機能を付加するのは新しい試みで、参入のハードルが高い。だからこそ取り組む企業は、グループ内の医療分野の知見を生かしたり、外部機関や企業と連携したり、データ取得や解析の技術者を社内に招き入れるなど、覚悟と本気を見せている。

 冒頭の芙蓉ディベロップメントは、同社が属する芙蓉グループ全体の知見を生かした。芙蓉グループには病院や介護施設も属している。実は芙蓉ディベロップメントは、10年以上前から健康寿命延伸住宅のベースとなる構想を掲げており、その一環としてグループ内で健康管理システムを開発。先行して、グループ内の病院や介護施設で同システムを利用してきた。その後、国土交通省の事業で健康管理システムを住宅に実装するための調整や実証実験などを経て、今回の発売に至ったという。

 住宅用の健康管理システムで鍵を握るのは「バイタルスコアリングAI」だ(図2)。バイタルスコアリングAIでは住人が測定した体温や血圧、脈拍、血中の酸素飽和度(SpO2)のデータを統計学的に解析し、個人ごとのバイタル異常値として検出する。異常値を含む測定値はそれぞれスコア化され、それを基に健康リスクを赤・黄・緑の3段階で表示する。赤や黄の健康リスクの場合、アプリを通じて住人にアラートを出すとともに、遠隔の家族や医師に通知することも可能だ。心不全が見つかった男性は、健康リスクが赤く表示されたことをきっかけに受診した。

図2 健康寿命延伸住宅に実装された健康管理システム
図2 健康寿命延伸住宅に実装された健康管理システム
住人が体温や血圧などのバイタルデータを測定すると、統計学的解析を実施し個人ごとのバイタル異常値として検出する。異常値を含む測定値はそれぞれスコア化され、それを基に健康リスクを赤・黄・緑の3段階で表示する。赤や黄の場合、本人や家族などに通知する。(画像の出所:芙蓉グループ、図:日経クロステックが作成)
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 健康リスクのアラートを出すにあたり、健康管理システムには正確性が求められる。既に導入している介護施設で健康管理システムの精度を調べたところ、健康リスクが赤と表示された高齢者の95%は実際に入院や服薬が必要だった。「今後、健康維持に向けた住宅の開発がブームになると思うが、『なんちゃって健康住宅』をつくってはいけない。健康の指標を用いて科学的根拠を示すことが重要だ」と芙蓉ディベロップメントの代表取締役で、芙蓉グループの代表も務める前田俊輔氏は強調する。