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 決まった路線や時刻表がなく、事前予約を前提として同時間帯に同方向へ向かう乗客をAI(人工知能)がマッチングする乗り合い制の公共交通、「AIオンデマンド交通」の導入が広がっている。

 日経クロステックの集計では、AIオンデマンド交通を導入する地域は2022年11月時点で100を超えた。オンデマンド交通を実現するためのAIソリューションを提供する6社の主要事業者が発表した数値を合計した。多くは実証運行段階だが、長崎県島原市、長野県塩尻市、長野県茅野市のように実証運行を経て本格運行へと移行する地域も増えている。

人口減少と高齢化がバス会社を追い詰める

 AIオンデマンド交通の導入が特に進んでいるのは地方都市だ。その背景には人口減少や高齢化に端を発する地域の構造問題と、それを解決し得る技術の進化がある。

AIオンデマンド交通が注目される背景
AIオンデマンド交通が注目される背景
(出所:自治体などへの取材を基に日経クロステックが作成)
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 多くの地方都市で共通する問題として、これまで地域の足を担ってきたバス会社の経営が次第に追い詰められている点が挙げられる。

 国土交通省が調査した乗り合いバス事業者の経常収支率、つまり経常収入を経常支出で割った比率は、大都市部以外に限ると過去10年以上にわたり100%を割り込み、慢性的な赤字となっている。

乗り合いバス事業者の経常収支率の推移
乗り合いバス事業者の経常収支率の推移
(出所:日本バス協会『2021年度版 日本のバス事業』)
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 さらに新型コロナウイルス禍が直撃した2020年度は、大都市部以外で65.3%と急激な落ち込みを記録。自治体からの補助金を得ても路線維持が困難になり、新型コロナ禍が落ち着けば回復するといった見通しも立てづらい。

 人口減少がバス会社の経営を追い詰める構図は収益性低下だけではない。運転士不足もボディーブローのように年々厳しくなっている。日本バス協会のまとめによると、乗り合いバスの運転者数は2019年度に約8万4000人。最少だった2004年度からは1万人以上回復しているが、そうした回復傾向も足元では鈍化。ピークだった1976年度と比べると約2万3000人、率にして22%ほど少ない。

乗り合いバスの運転者数の推移
乗り合いバスの運転者数の推移
(出所:日本バス協会『2021年度版 日本のバス事業』)
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 運転士の勤務時間や休憩時間などは厚生労働省や国土交通省の告示で詳細に決められており、運転士を確保できなければこれまで通りの運行便数を維持するのが困難になる。