同じ時間帯に同じ方向へ向かう乗客をAI(人工知能)がマッチングする乗り合い制の公共交通、AIオンデマンド交通。直近では、東京や大阪といった大都市圏にも広がりつつある。
都市部の路線バスも利益率はわずか
東京・世田谷の二子玉川駅。東急電鉄の2路線が乗り入れ、朝夕は通勤客でごった返すほか、駅前の大型商業施設もにぎわいを見せている。2021年度の1日平均の乗降客数が約11万9000人に上る同駅だが、駅前を発着する路線バスの一部を、2023年3月にAIオンデマンド交通へ切り替える計画が進んでいる。
同駅と世田谷区の宇奈根・喜多見地区を結ぶ東急バスの「玉04・05系統」だ。本格運行に先立ち2022年11月22日から3週間、昼間の時間帯に本格運行と同じ形式の実証運行を予定しており、地元の世田谷区役所と共同で住民説明会などを実施している。
「赤字額、収支率の悪い路線を廃止するなら簡単だが、そうはいかない。今まで普通に外出できていた方が今後も同様に外出できるよう、経費削減や乗務員不足の解決を図りつつ地域の交通を守っていく責務を果たしたい」。東急バスの原山大輔運輸事業部計画部地域交通グループ課長はこう語る。
東急バスは、東急電鉄沿線を中心に東京近郊のベッドタウンなどをカバーする路線網を持つ。それでも収益性の観点では、新型コロナウイルス禍以前から楽観視できない状況だった。「運行する120数路線の中でも黒字路線はわずかだ。そうした黒字路線の利益で赤字路線を賄っていた」(原山課長)
それがコロナ禍による在宅勤務の増加などによって、黒字だった路線も赤字となったという。「黒字路線も利益率はせいぜい数パーセント程度で、乗客数が同程度減れば赤字になる。直近では乗客数が20~25パーセント程度減っており、他路線の赤字を賄える状況ではなくなった」(原山課長)
収支改善に向けて赤字路線の見直しを進めるなか、玉04・05系統をAIオンデマンド交通に切り替える検討を始めたのは2021年春ごろのことだ。
乗り継ぎによる利便性低下を、AIオンデマンドで補う
見直しに当たっては路線廃止を回避すべく、運行頻度を極力維持しつつ人件費を抑える方策を考えた。そこで打ち出したのが、朝のラッシュ時とそれ以外で運行形態を変える案だ。
朝は定時・定路線の運行を維持するが、区間は現行の宇奈根・喜多見地区から二子玉川駅までではなく、途中の「砧本村」バス停発着に短縮する。これまではバス2台で20数分間隔の運行をしていたが、区間短縮によって必要なバスを1台に減らし、人件費抑制を図る。
ただ、二子玉川駅まで行く乗客は新たに、砧本村などのバス停で乗り継ぐ必要が生じる。同一のICカードで乗車すれば乗り継ぎ分の追加運賃が不要とはいえ、利便性が低下するのは避けられない。そこで東急バスは、朝のラッシュ時以外は定時・定路線のバスをAIオンデマンド交通に切り替えて利便性の向上を図る。
具体的には、砧本村バス停から宇奈根・喜多見地区にかけてのエリアを、11人乗り(実証運行時は14人乗り)のワゴン車1台が巡る。停留所は現行の2倍以上となる22カ所。現行の路線バスが走行できなかった住宅地内にも乗り入れ、乗客はこれまでより自宅の近くで乗降可能になる。