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 同時間帯に同方向へ向かう乗客をAI(人工知能)がマッチングする乗り合い制の公共交通、AIオンデマンド交通。その運行に欠かせないのが、次々に入ってくる配車予約のリクエストを適切に割り振る運行管理システムだ。

 国内で使われている運行管理システムは複数ある。そのうちの1つである未来シェアの「SAVS」は、2001年に産業技術総合研究所(産総研)で始まった配車シミュレーションの研究が起源だ。研究は公立はこだて未来大学に引き継がれ、2013年から実車両による実証運行を開始。2015年には30台の車両を使い、4日間で300人以上の乗客を送迎することに成功し、2016年に法人化した。

「組み合わせ最適化」で走行経路に予約を挿入

 SAVSのシステムは、クラウドにある配車サーバーや料金計算エンジンなどで構成し、乗客・運転士・コールセンターのそれぞれに向けたアプリケーションはAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を介して配車サーバーなどと連動している。

未来シェアの「SAVS」のシステム構成
未来シェアの「SAVS」のシステム構成
(出所:未来シェア)
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 AIオンデマンド交通の事業者によっては、SAVSの標準アプリを使うのではなく、事業者が独自のMaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)アプリを開発して顧客に提供し、その中にSAVSの乗客アプリ機能を組み込んでいるケースもある。例えば熊本県荒尾市は市内の観光スポット、物販店、レストラン、宿泊施設、医療機関などの情報をまとめたアプリ「おでかけあらお」を提供し、その一環としてAIオンデマンド交通「おもやいタクシー」の予約機能を実装している。

熊本県荒尾市のAIオンデマンド交通「おもやいタクシー」の車両
熊本県荒尾市のAIオンデマンド交通「おもやいタクシー」の車両
(写真:日経クロステック)
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荒尾市が提供するスマホアプリ「おでかけあらお」。アプリ内にAIオンデマンド交通「おもやいタクシー」の予約機能を組み込んでいる
荒尾市が提供するスマホアプリ「おでかけあらお」。アプリ内にAIオンデマンド交通「おもやいタクシー」の予約機能を組み込んでいる
(写真:アプリ画面を日経クロステックがキャプチャー)
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 SAVSの根幹を成す配車アルゴリズムは「逐次最適挿入法」と呼ばれるものだ。同アルゴリズムでは、各運行車両に対して乗客の乗車地点・降車地点を並べた形で予約を管理する。運転士はシステムから指示された順番に従い、各乗客の乗降地点を巡っていく。乗客からの新たな予約が入った際は、その乗車地点と降車地点を既存予約のどこに挿入すれば、追加で発生する「コスト」を最小にできるかを探索する、いわゆる「組み合わせ最適化」により効率の良い運行を確保するものだ。

SAVSの配車アルゴリズムである「逐次最適挿入法」の仕組み
SAVSの配車アルゴリズムである「逐次最適挿入法」の仕組み
(出所:未来シェアの資料を基に日経クロステックが作成)
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 ここでいう「コスト」は基本的に、予約を追加する前の経路と比較して新たに迂回が生じた場合の所要時間の延びとなる。ただ実際には「時間だけでなく走行距離などを含め、30以上のパラメーターを考慮している」(未来シェアの松舘渉代表取締役)

 こうした配車アルゴリズムは、過疎地域における貨客混載や定時・定路線のスクールバス、企業の従業員向け送迎バスなどにも応用できる。貨客混載では「個々の車両において乗客のキャパシティーを設定するのと同様に、荷物のキャパシティーを設定すればよい」(松舘代表取締役)

 例えば熊本県天草市で2022年8~10月に実施したAIオンデマンド交通の実証運行では、タクシー車両を地域の児童が普段利用するスクールバスの代わりとしても運用した。「一般の乗客向けに予約を開放する前に児童の登校日の予約を作成しておくことで実現している」(松舘代表取締役)といい、スクールバスとして運用するための特別なシステムを別途設けているわけではないという。